スーツは男の戦闘服 -2-Ua




「〜〜〜〜っ!」
声にならない声を上げて、アンダーソンは閉まりかけたドアに身体を入れて止めると、前屈みのまま、廊下に人気が無い事を感謝しながらスミスの後を追った。

灯のついていないオフィスの窓際に、スミスは居た。
窓から入るネオンの光に、シルエットだけが見える。こちらを向いているようだった。
煌々と照る廊下の灯を背中から受けて入口に立つ自分は、スミスにはどんな風に見えているのだろう・・・
そんな事を、ふと思った。
「俺のキスは不味かったか?」
努めて軽い口調で問いかける。
「俺、タバコ吸わないし・・・」
「それ以前の問題だ」
窓際から返事が返ってきた。
その事に元気付けられて、アンダーソンはオフィスの中に入った。
「どんな問題?」
その声に、まるで身が竦んだように身を引いたスミスの腕を捕まえて問う。
「あんた。俺の事、嫌いか?」
再三のアンダーソンの言葉に、スミスはひとつ、大きな溜め息をついた。
「君はプログラマーとして優秀だし、仕事も順調に進んでいる」
「ああ。何も問題ないだろ?」
「有るとも」
薄闇の中、スミスのブルーの目がアンダーソンを睨む。
「私は、君個人に、興味は無い」
きっぱりと言い切った口調は、その視線と同じく冷たかった。
尚も腕を掴んだままの手を掃おうと身を捩るスミスに、アンダーソンは逆に手に力を入れて引き寄せた。
「俺はあんたに興味がある」
有無を言わさず抱きすくめて、さらに強引に先に進もうとするアンダーソンと、それを阻止しようと抵抗するスミスとの無言の遣り取りが、暗いオフィスの中で続く。

頬を打つ音が、ラウンドの終わりを告げるゴングのように、高らかに響いた。
デスクをいくつか挿んだ所まで離れたスミスは、乱れた衣類を手早く直すと、食入るように自分を見ているアンダーソンを睨み付けた。
「君はまるでハッカーだな!」
その言葉に、アンダーソンは身を堅くする。
「傍若無人に、他人の領域に踏み込んでくる。そして好き勝手に荒らしてゆく。それによって相手がどんな迷惑を被るか、お構い無しだ!」
左のカフ・リンクスが無くなっているのに気付き、スミスはむき出しになった手首を胸の前で押さえた。
「私は!ハッカーが大嫌いだよ。アンダーソン君」
そう言い捨てると、スミスは足早にオフィスから出て行った。
「スミっ・・・!」
後を追おうとして踏み出したアンダーソンの爪先が、何かを弾いた。
拾い上げると、オニキスのカフ・リンクス。
先ほどまでスミスのカフスに付いていたのを、自分が引き千切ったのだと気付く。

ちかり…と、外からの光を弾いて、手の中でカフ・リンクスが光った。
スミスとの関係を、自ら壊してしまったアンダーソンを嘲笑うかのように・・・



--- to be cantinued ---
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