Anchor C9インプレッション(2010年モデル)
クロモリフレームにドロップハンドル、フロントバック。自転車での旅を充実させるために選んだAnchor C9。約5年間、長距離/旅用として運用していましたが、RALEIGH CRNの導入に伴い、2014/11月より近〜中距離・通勤用途に転用後に印象が変化し大幅に加筆修正。
GIANT DEFY3の導入により2015年6月に手放してしまいました。
ロードバイクではなく、スポーツユーティリティジャンルとしてカタログに掲載されていたAnchor C9。ロングライドやツーリング向けというキャラクターから、ツアーバイク(ツアラー):TREK PortlandやSPECIALIZED SEQUOIA、LOUIS GARNEAU LGS-CTあたりと同じような類なのでしょう。
早い話1980年代には わりとよく見かけた、スポルティーフです。
ロードバイクほど速く走れはしませんが、ランドナーの設定車速よりは明らかに速い。キャリアが装備でき、手軽に小旅行に使えるといった点が魅力でもあります。
長所として
印象深いのが乗り心地。
昨今のスポーツ自転車の中では、やわらかい乗り味の部類に入ると思います。とはいえ、高級な乗り味ではなく、硬さの中にしなやかさがあるような、そんな印象です。
次に直進性。柔らかいフレームのはずなのですが、踏んだ力が比較的効率よく推進力に変換されている感触があります。SPECIALIZED Sirrusに比べれば、ずっとロスが少ない、上りもラクではないものの、わりと速く上れるほうでしょう。
立ち漕ぎ:ダンシングも無難にこなすほうではありますけれど、どちらかというとあまり頑張らずにシッティングのまま、淡々と上りをこなしていく走り方が似合っています。
それから乗るときの服装を選ばないこと。
太いフレームに派手なカラーのロードバイクに比べ、ずっと日常的な雰囲気が強く、どんな服装でも気軽に乗れる敷居の低さは、旅との相性も良いと思っています。
短所としては、中途半端なところでしょうか。
バリバリ飛ばせるわけではないものの、逆に古典ランドナー的なユルイ雰囲気も持っていません。ランドナー的なやさしいというか、ほっとするような雰囲気は少ない。極低速はそれほど得意ではなく、ある程度速度を上げたほうが快適だったりします。それでもスピードを求めてガシガシ踏み続けるよりは、幹線道路を外れた、田舎道をほどほどのペースで走り抜けるのが心地良いという、忙しい現代人には少々わかりにくい性格のように感じます。
それに重いこと。フツーに走っているときはそれほど意識しませんが、長い上りとか、輪行袋に入れて担ぐときに重さを感じてしまいます。
今でも長距離まったり走行用途では一級品だと思いますし、近距離用途でも大きな欠点はありません。ママチャリなどの軽快車はもとより一般的なクロスバイクと比べても効率よく走れ、基礎体力は要るもののまずまずの巡航速度を維持できる快速車。
出勤のときに幹線道路を外れると、そのままフラっとどこか遠くへ走って行きたい衝動にかられてしまうのが欠点かもしれません。
今度は短中距離を速く効率良く移動するという指標で比較対象を変えてみます。
最新のロードバイク、エントリークラスと比べてもずいぶん見劣りするといっていいでしょう。フラットバーロードと呼ばれる、高価格帯のクロスバイクとも、とても同じペースで走り続けられるレベルではありません。
少しの差ではありますけれど、ひとつひとつの動作がいちいち重い。漕ぎ出しから重さを感じるし加速は鈍い。20km/h前後以下の低速域では決して効率が悪くはないのに、それ以上になると粘っこくてスピードが乗らず、脚力を吸収されているかのよう。巡航速度30km/hを維持するにはタフさが要求されます。
速度が上がると、直進性もさほど良いわけではないのに進路の微修正がやや重い面も中途半端。
3400系SHIMANO SORAのデュアルコントロールレバーを3500系へとカスタムしてシフト操作は改善されたものの、操作ストロークはやや大きめ、カンチブレーキの効きがマイルド。峠の下りではそれなりに握り込む必要があります。
乗り心地のほうも、20km/h以下の低速域では車体の重さが落ち着いた乗り心地や安心感を生んでいる印象ですが、速度を上げていくと、重さが逆に余計な振動につながるかのようです。
急かされることがなく、まあ、のんびり行こうよというタイプ。
効率よく距離を稼ぐとか、街中をスイスイと走りたいという向きにはあまり合わないキャラクターです。ロードバイクと連れ立って走るのも避けたほうがいいでしょう。概ね20〜25km/h以下での走行が乗り心地よく、体力も消耗しにくいと思います。
慌ただしい日常を送り、効率や合理的なものに価値を置く現代日本人には、あまり興味の湧かないタイプの自転車ですね。自転車自体にすごく魅力があるわけではないし、それなら同じような価格の、ローエンドのロードバイクに乗る選択がまっとうでありましょう。そのほうがはるかに実のある自転車ライフを送れるかもしれません。Anchorブランドからももちろん、海外ブランドからもこの手の自転車はラインナップから消えてしまいました。
今どきのローディには考えられないユルく、レトロチックな乗り味は、しかしゆっくりと走ることで、スピードや効率ばかりにとらわれて見落としてしまうものを、拾うことができるという側面も持っていますけれど。