名古屋ウォーターフロント 2011/1月
今年の冬は寒い。ここ東海地方は都市部でも連日最低気温が氷点下がザラ。
最高気温だって10℃に届く日なんぞ滅多にありません。
インフルエンザも流行しているという、こんな寒さが続く日は屋内でおとなしくしているか、せいぜい近所をちょびっと走る程度にしていればいいのですけど、世間に合わせるのが苦手な私は、もう少し足を伸ばしてみたくなったのでした。
輪行も考えたのですけど、プラン上、名古屋周辺の駅で乗り降りしたり、あるいは名古屋駅で輪行袋を担いで乗り換えすることになりそう。混雑するところへ行くのも気が引けて、今回は車を利用することにしました。
朝の気温は0℃。しかも薄曇りの空が気分的にもさらに寒さを増している気がします。ほんと、馬鹿げていますよね。
自転車を下ろして
中川橋を渡る
名古屋港ガーデンふ頭を9:00ごろスタート。一路西へ向かいます。中川橋を渡り、荒子川に出たところで川沿いに北へ。
フェニックスアイランドを回り込むように荒子川を渡り、また西へ。
ランナーの人たちを多く見かけるのは、車も少なく、環境がいいせいでしょう。さらに西へ進まずとも、ここの周辺でまったり過ごし、今日のサイクリングをおしまいにしたっていい。そのほうがよほど賢明な選択でしょう。しかしその心地良さに、人工的なものを強く感じた私は、ふと、小説『ぼくとペダルと始まりの旅』の一節を思い出しました。
信号が変わるのを待っていたぼくのとなりには、短パンとニューヨーク・ヤンキースのTシャツ姿でジョギングしている老人がいた。
「すみませんが、この町を出るのにいちばんいいルートを教えてもらえませんか」
「この町を出る?」彼は言った。
「ええ、そうです」
「この町を出たりはしないもんさ。誰も出たりしないんだよ」そうしてジョギングしながら行ってしまった。
荒子川沿いの並木
庄内新川橋へのアプローチ
果たして大規模国道であるR23、通称名四国道の橋を自転車が通行できるのか不安ではありましたが、心配無用でした。 ただし、橋までのアプローチは階段。ええ、お察しの通り橋の向こうも階段。あまりいい気分ではありませんが、まあいいではないですか。こうやって海や川を眺めながら、水辺をサイクリングするのも。先を急がず、散歩気分で行きましょう。
庄内新川橋
左が庄内川、右が新川
それにしても冷える。藤前干潟近くの藤前公園で早速トイレ。冬はまめに行っておかないと後で困ったりしますよね。
日光川大橋
河口の水閘門
日光川大橋を渡り海部郡飛島村へ。名四国道を逸れると、風景は一変し、閑散とした干拓地の光景が広がります。その景観をしみじみと味わいつつ、それでも水辺が恋しくなって、筏川沿いを走ってみました。北西の季節風が厳しく吹き付け、スピードは落ち、体温が奪われていきます。
筏川
木曽川の向こうには遊園地
筏川を外れて西へ、稲狐町を抜けて木曽川を目指します。
冬の、寒々とした木曽岬干拓地を横断すると、木曽川の向こうにはナガシマスパーランドという、遊園地で有名な施設が見えました。華やかで賑やかな遊園地。温泉施設とアウトレットモールも充実しています。川を挟んでこちら川は荒涼として人の気配のほとんど無い干拓地。その、あまりにも対照的な光景も、ここでしか味わえないものであろうと思います。
途中、畑を手入れしている年輩の方を見かけました。荒涼として、だなんてとんでもない。よく見れば耕作放棄地なんてほとんど無い。どの畑も、春に備えてよく手入れされていることに、今、気がつきました。他の季節にここを訪れれば、四季折々の、すばらしい田園風景が拡がっていることでしょう。
通りがかった沼地では、やはり年輩の方が一人、網を投じて漁をしている姿が見えました。ここに住んでみえる方々はしっかりとこの土地に根を下ろし、この土地を愛し、この土地とともに生活しているのです。
遊園地やアウトレットモールは、地域経済にとって重要な役目を果たすのかもしれません。一方、広大な干拓地は地域経済の活性化とは縁が薄いのかもしれません。
しかし土地と人の縁、という切り口でみれば、浮ついて不安定にも見える商業施設に対し、しっかりと土地とつながっている生活は、どこか市場経済や合理主義では量れない強さがあるようにも見えました。
木曽岬温泉
どの畑もよく手入れされています
木曽岬温泉に出ました。今日も根強い温泉ファンが多数訪れているようです。私もひと風呂、といきたかったのですが、さすがにこの寒さ。芯から温まっても、あっという間に湯冷めすること間違いなしです。またの機会に訪れることにして木曽川沿いを北上しました。
尾張大橋が近づき、ここで一時休憩して栄養補給しておきます。ところが あまりの寒さにチョコをかじる顎に力が入らない。体感気温は0℃近いです。エネルギーを補給するつもりが、逆にエネルギーを消耗してしまったような…
尾張大橋緑地を臨む
伊勢湾台風記念碑
何かを懸命に訴えるネコ
筏川沿いを東へ
伊勢湾台風記念碑そばのトイレを借りて自転車のところへ戻ると、野良猫でしょうか、すごい勢いで私のもとへ駆け寄ると、ニャーニャー大声で鳴いて何かを懸命に訴えるのです。こういうときにネコの言葉がわかるといいんですけど… エサが欲しいのでしょうか? そんなに大声で鳴かれても、私には何もすることができません。後ろ髪を引かれる思いで その場を去りました。
筏川をしばらく走った後に、こどもの国で左折、宝川を渡り、善太川を越え、日光川、蟹江川、戸田川と次々に橋を渡り、水辺を満喫します。
東海通にはいると歩道はあまりにも段差が多くて走る気がしません。路肩を走りましたけど交通量がぐっと増えて、自分のペースでは走りにくい。後方の路線バスが私を抜かすのに難儀してるようだったので少しペースを上げて、停留所で停まれば抜かさなくていいぐらいのペースで走ります。
日之出橋を渡り、名古屋競馬場前を通過、東海橋を渡る頃には、体が熱くなり、脳内で脚力残量警告灯が点灯するようになってしまいました。まだ50km弱で、標高差もほとんど無いとはいえ、寒さのために想像以上に体力を消耗したようです。
熱田神宮横の通り
七里の渡し跡
熱田神宮を南へ向かい、道に迷いつつ七里の渡し跡に到着。汗は瞬く間に引いて悪寒がします。もう正午をまわっていたのですが、昼食を食べるタイミングを完全に逃していました。
木曽岬干拓地でお店が見つからなかったのは仕方ないとして、東海通ではいくつか店があったのに、何となくゆっくりする気分になれなくて…
このあたりにも何も見あたらず、非常食として買っておいた おにぎりをほおばりました。氷のように冷たくなったおにぎりですけど、こうやって渡し跡で食べるのがウマイ。何だか山を登ったときに食べる、冷えきった食事を思い出します。
堀川を渡り、住友軽金属横を通り、築地口からふ頭へと戻ってきました。
落ち着かなさそうな店を避け、大通り沿いに面した、カウンターだけのこじんまりとした店でゆっくり昼食をとりました。味はともかく、みそかつ定食\600という庶民的な価格が私好みです。
ようやく昼食
南極観測船ふじ
もう、ほとんどの愛知県民の記憶から消えた、経営破綻したイタリア村を遠くから眺めつつ、ガーデンふ頭臨港緑園へ到着。ナガシマスパーランドほどではありませんけれど、多くの親子連れで賑わい、名古屋ウォーターフロントの表の顔としての役割を、存分に果たしているようです。
シートレインランドの観覧車の脇を過ぎて駐車場へ戻りました。これで今回のウォーターフロントツーリングが終了。走行距離およそ60km。おつかれさま。
一般的には、何も木曽川のほうまで行かずとも、この名古屋港周辺だけでも十分楽しいポタリングになることでしょう。貴重な休日は、賑やかなところや名所を見てまわるのが有意義なのかもしれません。しかし、寂しいところや汚いところ、暗いところだって、そこには新たな発見があったり、考えさせられる何かがある。
私たち日本人は高度経済成長を経て、利便性や効率を追い求め、どんどん清潔になり、そうでないものたちは切り捨ててきました。
だけど私たちを取り巻く世界も、私たち自身も、光だけ、表ばかりで構成されているのではない。大げさかもしれませんが、一見、影や裏に思える部分も見て、感じることによって、より豊かなバイクライフが過ごせるのではないかと思います。冬は出かけるのがおっくうですけど、太陽光の作り出す、光と影のコントラストがくっきりとしていて、ほとんど雪の降らない太平洋側でも味わい深い旅ができる気がします。
しかし、寒い中をずっと走り続けたせいか、ずいぶん肩が凝ってしまいました。少し頭痛もしてきたのでカゼ引いたかもしれません。 引きました…
(おしまい)