薩埵峠と旧街道 蒲原〜興津 2010/5月
話を聞いてから、写真を見てから、自然豊かという雰囲気ではないけれど、
なぜか行きたくなっていた薩埵峠。
しかし居住地からそれほど離れていない、静岡の東方というロケーションなこと、
旧街道の一部であることから車やバイクよりも自転車で訪れたかったことから、
なかなかその地を踏めずにいました。
それが、とうとうその願いが実現することになったのです。
予定の日が近づくにつれて天気予報が悪化、前日の夕方に見た予報では現地日中の降水確率が50%以上。しかも寒いとのこと。
どうしようか さんざん迷いました。賢明な諸兄は薩埵峠に行くのなら晴天じゃないと、とさっさと延期するか、車で出かける計画に変更するところですが、そこは おバカな私。たいした距離を走るわけでもなし、雨の峠も空いていていいかもな〜、なんて アホ丸出しの発想をしたかと思うと、前夜チケットショップで割安な鉄道切符を購入、雨具を準備し、数々のビニール袋やタオルまで、鼻歌まじりに用意する光景は、まるで壊れかけたサイクリストでした。
当日の朝、出発が遅れた私は、好転しない、高い降水確率にも凹むことなく走り始め、いつもは通らない、ちょっとした勾配のある、しかし最短距離になるバス通りを飛ばし、気がつけば予定より早く駅に着いていました。
ここから輪行し、まず豊橋駅で新幹線に乗り換えます。
待ち時間を使い、階上の待合室でサンドイッチとコーヒーを。
サイクリストは体が資本。食べれるうちに食べておかないと。
こだまで静岡まで、そこから東海道線へ乗り換えます。
車内に輪行袋を置いて、ボケーっとしてると、なんとそこへ同行者のSさんが!!
輪行袋が2つあるだけでガゼン賑やかになるのだから不思議です。
楽しくおしゃべりしているうちに、富士川駅に到着しました。
名鉄車内
富士川駅
どうやら雨は降ってないようで、しばらく大丈夫そう。
それどころか、時折日差しが出て、暑いくらいの天候になりました。
駅前で自転車を組み立て、最初に東へ走り、富士川を見に行きます。
迫力のある川幅ですが、流れが穏やか。
橋の上から、車からチラリと見る光景とは、また違う、穏やかな眺めです。
富士川
旧街道へ
ここからいよいよ旧街道を走り始めます。わかりにくい入り口から坂を上ると、海の近くにしては植え込みの多い、少々上品な住宅街が続く道となりました。
一里塚
栗の粉餅を食べてひと息
右は行き止まりってほんと?
ほら、本当でしょ
蒲原に入り、少々賑やかになった街道沿いの、一軒のお休み処へ寄りました。もし車やバイクで来ていたら間違いなく通り過ぎてしまっていたであろう、この場所、中に入ると、そこは旧い物に囲まれながらも、温かみに溢れた、素敵な空間だったのでした。
お休み処
2階からの景色
特に2階から下の通りを行き交う人々を眺めると、そこには実に穏やかで、和やかな、心地よい世界が拡がっていました。ぼんやり漬け物でも食べて、そのまま寝てしまいたいくらいな空気でありました。
名残惜しさでいっぱいだったのですが、正直なもので腹が減ってきてしまったため、仕方なくこのお休み処を後にして、由比へ向かいました。
由比漁港
うおー!!
由比と言えば、桜えび。頭の中は桜えびでいっぱい。
そんな期待を大きく上回る桜えび定食を、夢中でガッついた私たち。特にこの日は生の桜えびをいただくことができ、感激です!
お腹いっぱいになり、体力充実。さあ、いよいよ薩埵峠に向かいます。
いざ峠へ
激坂の始まりぃ〜
噂には聞いていましたが、こうやって自ら上ってみるとやはりすごい。激坂、いや猛坂と呼べばいいのでしょうか。ギアはもちろんロー×ロー。最初は何とか自分のペースで上れましたが、途中から己の全身がミシミシいうような、ものすごい負荷が休みなくかかっていることを感じ、折れそうになるのをこらえていると、行く手に猛坂の終わりが見えてきました。ふくらはぎがプルプルくる予感を懸命になだめつつ、何とかクリアしたのでした。
とんでもない猛坂をクリア
来ましたよ〜
峠の駐車場に到着。
そこは視界が開け、眼下にはおなじみの東名や国道1号、その先には富士川、頭を振ると三保や伊豆までも見える、印象的な場所でした。
爽やかな風が抜ける、良いところです。
たまたまなのか、人も少ないせいで、よけいそう感じたのかもしれません。自転車で来て良かった。己自身の力で上ったからこそ味わえるものもあると思います。
印象的な景色です
峠の出口、いや反対側の入口
峠を後にして興津方面へ下ります。
清見寺にも寄りました。下界とは一線を隔てた、静寂で落ち着いた空間が素晴らしいです。
清見寺
山門近くの線路わきで
この後は清水市街を抜け、静岡駅から輪行しました。
終日同行してくださったSさん、ありがとうございました。
時間的に夕食は新幹線の車内で。
いろんなおかずの味を楽しみながら、今日の走りを振り返る…
これも輪行の醍醐味のひとつですね。
乗り換えで降りた豊橋駅で、名鉄の発車時刻を見たらギリギリ。輪行袋を担いだまま階上から走り降りました。
今考えるとけっこう危なかったと思います。ただでさえ疲労が溜まってるのに、重い物を担いでいるのです。もしバランスを崩したら輪行袋もろとも階段から落ちて、ただでは済まなかったことでしょう。
発車のベルが鳴り響くホームの上も走りました。
足がもつれて思うように走れず、もうあきらめようと思いましたが、親切な車掌さんが扉を閉めずに待ってくれました。ありがとうございます。
最寄り駅で降車。
とうに陽は落ち、暗がりの中で自転車を組み立てること約20分。
地方の駅ではありますが、それでも鉄道の駅。休日の夜は、平日とはまた違った、小さな出会いや別れがあったりするのです。
小さくキャーと叫びながら、友人を迎える若い女性のグループ。
恋人に会いに来たのか、男性の前で上気した声の女性。
すぐそばでは外国人と日本人が数名、既に酔っているのか、騒いでいます。
「Are you a troublemaker?」「Yes, I am.」「Me,too」「ダッハッハ」
いいではないですか、人それぞれ、それぞれの世界がある。
こうやって自転車を組み立てている私も、それなりの世界があるわけですし。
なぜかちょっと心和んだ私は自転車を仕上げると夜のバス通りを走り始めました。
ナイトランだって悪くはないさ。
バス通りを、往きよりも快調なペースで飛ばし、無事家についたのでした。
しかし、翌日激しい筋肉痛に見舞われました。それもバランスの悪い痛み...
やっぱり輪行袋を担いで走ったのが応えたみたいです。
(おしまい)