初夏の三河湾 2017年6月
雨が降った日に梅雨入り宣言されてから約2週間が経過。その間ほとんど雨は降らずに快晴が続き、大気が乾燥していました。
ずっと体調がおかしい。眠いけれど異常に眠いわけでもなく、だるいけれど異常にだるいわけでもない。心と体が乖離しているかのようにフワフワしている感覚です。一向に良くなる気配がないため、かかりつけの東洋医学のクリニックで受診するとこれで正常とのこと。
フワフワするのは季節の影響である。雨が異常に少ないものの、そもそもこれが初夏。極端に暑くもなく湿気に苦しむこともなく、冬ごもりの準備も要らない。要するに環境ストレスが非常に少なく、構える必要が無いことから、体に力が入っていない状態だそうです。
動植物は自然界の四季のうつろいに左右されます。人間も同じ。自然から離れている世間の人々はそこに気づかないとセンセーは仰る。私としては安心していいような、でもそれはそれでますます世間から離れてしまうようで不安でもあり... まぁ、心身に異常はないとのことなのでとにかく走ろう。海まで。理由などありませんけれど、それでいい。あまり深く考えたり、理由付けする必要も無い。ときどき無駄なこととか意味のないことをするほうが、人間らしいし自然なことなのかもしれません。
どうしたことか急に妻も同行することになりました。自転車で海まで走るという意味の無い発想に同意するなんて、私だけでなく妻もどこかおかしいのかもしれません。それはともかく朝、身支度を整えて出発しかけたところ、妻のAVAIL2がいきなり痛恨のパンク... 「今日はもうダメか。残念」 昨夜、事前に点検すべきだったのですが過去を悔やんでもしかたありません。ホイールを外し、タイヤからチューブを引き抜いて点検するとバルブ付近がシワになって避けていました。どうやら経年劣化です。修復不可能と判断しスペアチューブへ交換、約30分で再び走れる状態に。出鼻をくじかれてテンションが下がっていた私たちですが、せっかくの機会です。気を取り直してスタートしました。改めて考えれば、このパンクは不運などではありません。どのみちいつかパンクする運命だったんだし、出先で走行中にパンクするよりはよほど運が良い。日頃の点検... まぁ、いいではありませんか。
道中はやや向かい風。だけど比較的体が軽い。というか、自分の体が自分でないような、やっぱりフワフワしている気がします。それにしても季候が良いのか野鳥が多い。スズメやカラス、ムクドリだけでなく、大型のアオサギを何羽も見かけました。
途中何度か小休止を挟みながら快調に20km以上走ったまでは良かったものの、手元の地図を頼りに左折し進んでいたら、いつの間にか違う方向へ走っておりました。地図が古いとこういうことがあるのですね。季節は間もなく夏至。太陽の位置が高くて影の方向が今ひとつはっきりせず、方角がズレていたことに気づくのが遅れました。
道を間違えたことに気づかず
長閑な風景の中を走行
しばらく戻って元の県道へ合流し吉良の庁舎を過ぎて国道に入ります。道が狭い上に交通量が多くて走りにくいのを少々ガマン。国道を逸れて海方面へと長閑な景色を進んでいくと、目指すカフェがありました。
落ち着いたカフェ
洗練された味のベーグルサンド
周囲に調和した、実に落ち着いた外観が好印象です。内装が新しく新築に見えたのですが、実は古民家をリノベーションしたそうです。オシャレというより、どこか温かい雰囲気なのもうなずけます。この日は生ハムとフルーツトマトのベーグルサンドに、オプションのミニカレーまでチョイス。サラダもベーグルサンドもすばらしく旨いです。すべての素材が完璧であり、隅々まで手づくりです。フルーツトマトのソースがかかったヨーグルトまで洗練されていて、すっかり満足したのでした。
ここ、ベーグルが有名な、初めて訪れたカフェですが、実は初めての味ではありません。数年前、別のカフェでここのベーグルが出され、美味しかったことを憶えていて、いつか来たいと思っていたのでした。そのことをカフェのおねえさんに話すと、そこからあれこれと話が弾み、ベーグルのことや食材のこと、コーヒーのこと、コーヒーショップのことなど。一部は互いに既知のこともあり、部分的に世間は狭いと感じることも。お土産にベーグルを数個購入すると、おまけにミニトマトを一袋いただきました。ありがとうございます。
食後はゆるりと東へ。国道を逸れて狭い旧道へと入ると、随所に程よく生活感が見られるだけでなく、かつて小さな街道だったような名残を感じます。こうした名もなき街道を走るのが楽しい。何年前のどういうものかはわかりません。時代考証された価値のあるものなどどうでもよろしい。年齢を重ねたせいかどうかわかりませんが、旧い道が見せる、その佇まいともいうべき、見えない空気のようなものを感じることがあります。そこに何の価値もありませんけれど。
吉良から幡豆まで走り、三河湾に面した浜辺でのんびり休憩しました。人が極端に少なくてガラガラだけど、何もしなくていい。穏やかな波の音を聞いているだけでいい。
自転車で走っていると街中はともかく、のんびりした地方では刺激が少なく、走行中に何も考えなくなることがあります。こうして何も考えず、頭がカラになってしまう時間は、現代人にとって無用なのかもしれません。だけど様々なルールやしがらみ、他者の価値観から自分を開放する貴重な時間でもあり、己の無意識が自然界に接続する貴重な時間でもあると思います。季節の影響を受けていた私の体のフワフワしていた感触でしたが、徐々に違和感が薄れていく気がしました。落ち着くというよりも心までフワフワしてきたようで、さらに世間から外れていってしまうようですが...
国道へと戻り、小さな峠を越えて、お気に入りのブックカフェに到着。これまで何度か訪れていますが、カフェタイムに利用するのはずいぶん久しぶりになります。
レモンタルトがすばらしい! 見た目は今ひとつながら柑橘系の力強い酸味が疲れた体に染み渡っていくようであります。本を一冊ゆっくりと読み終え、すっかりリラックスしてしまいました。カフェの若いオーナーご夫婦の無心な笑顔が眩しい。私より確実に一回り以上も年齢が下でしょうが、逆に魂のレベルはダメ人間の私とは比べものにならないほど高い気がします。そうした見えないものを感じるのでした。
お気に入りのカフェ
柑橘系の酸味いっぱいなレモンタルト
カフェを出てさらに東へ、数km先にあるJRの駅へ向かいます。が、途中で妻が「輪行メンドクサイから走って帰ろう」と仰る。確かに心配ないほど日は長く、風向きも南風で自宅方面は追い風。それに気候のせいなのか、力むこともなく、何となくいつまででも走っていたいような妙な感覚がありました。それではと向きを変えて北へ、自宅へと走って行きました。
南風の効果は絶大で、秋から冬、春先までは北風に苦しむ道のりも、何もストレスを感じることなくラクに走れてしまいました。もっとも市街地は交通量が多く、気を遣うのはしかたありませんけれど。
この日の走行距離は合計70km。「なぁんだ、輪行なんかしなくたって走れるやんか」とのたまう妻、大丈夫でしょうか? 私と同様、徐々にヘンタイサイクリストへの道に足を踏み入れてしまっているのかもしれませぬ。
(おしまい)