小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2016/05/15

春の東海道三河路 2016年4月

2015年10月、乗用車に酷く撥ねられて一時意識不明の重体に陥った事故のダメージが大きく、回復が遅れています。特に右手首は半年経っても可動範囲こそ拡がったものの痛みが残ったまま。病院ではリハビリを兼ねてほどほどに使うよう言われていて、おとなしてくしていても何にもならないようです。そこでGW期間に計画した旅行に備え、実走行と輪行の練習をしておこうと出かけてまいりました。


桜散りゆくころ、寒さに身をすくめることもなくなり、穏やかな気候に恵まれた日々が続くように。右手首が冷えることも減って痛みが和らいできたような気がします。この日も北西〜西の風が少々冷たいとはいえ、ごく弱く快適。さっそく自宅から東方面へ走り始めました。


大平一里塚の榎


桜が散っていきます

大平宿の旧東海道が途切れて国道1号線に合流、交通量の多い道路を進んでいくと、一時交通が途切れたその刹那、ヒバリが賑やかにさえずっておりました。国道1号線でも野鳥の声が聞けるなんて、車やオートバイで通行しているだけでは全く気づきませんでした。元気良い鳴き声に私も嬉しくなります。
美合で国道1号を逸れて県道でもなさそうな狭い道に入るとわずかに松並木の風情が見られ、分断された旧東海道の面影があるのでした。


松並木


藤川宿へ

松並木の風情はすぐに消えて道も寸断されてしまい、峡路を迷いつつ国道一号へ合流してから藤川宿の旧道へと入っていきました。藤川宿は道が狭いこともあって、あまり観光地化されておらず、生活感のある温かな風情が心地よい所です。道の駅に寄ることもありませんでした。
藤川宿を抜けて国道1号を横断し、舞木町へ入ったところで妻のGIANT AVAIL2が痛恨のパンク... バルブ付近が裂けておりました。経年劣化かなあ。
右手首に痛みを抱えたままのスペアチューブへの交換作業に少々手間取り、ここで約30分をロス。おまけに携帯ハンドポンプでのエア充填にも手こずって途中で諦めました。まぁ、再度パンクしたらそのときはそのときさ。ちなみに帰宅後確認すると4.0barしか入っていませんでした...


痛恨のパンク


国道1号を進む

本宿の中を抜けると、国道1号の他にルートがしばらく無く、街道歩きのツアー客とすれ違いつつ自歩道を東へ向かいます。路肩が狭くて危険なため、道路右側の自歩道を通行せざるを得ないことで大型トラックの走行風をまともに浴びる形となり、興ざめですがしかたありません。
長沢に到着し、ようやく旧街道へ入ります。


桜と小川


御油の松並木

途中、桜に呼ばれたかのような気がして自転車を止めました。何の変哲もない風景なのでしょうが、私の眼には神懸り的に映ります。こうした景色を見ても若い頃は何とも思わなかった。ただ綺麗な画として見ていたのだと思います。
今では50歳を過ぎ、若い頃にはわからなかった、何か目に見えないものを感じるような気がします。それが何なのかはさっぱりわかりませんけれど、もしかしたら彼岸のようなものかもしれません。
私の生命が薄くなっているのでしょう。そのほころびを、怪我や病が突いてくる。だけど悪いことばかりじゃない。命の隙間に、あたかも光が差し込むような瞬間だってあるのですから。

赤坂宿に着いたときに既に腹が減っていましたが、よさそうなお店が見つからず、御油の松並木まで走りました。静かです。交通量の激しい国道1号のそばとはとても思えないほどです。あまり観光地化されてないことが、かえって落ち着いた雰囲気を保っているのかもしれません。旧街道そばの小さなカフェが目について、お腹ぺこぺこの私たちは迷わず入りました。


小さなカフェ


ホットドックとドリア

ランチセットのホットドックとドリアは一見B級ではありますが、素材が吟味されていて丁寧に作られています。少々疲れた体にとって、おいしいものが実にありがたい。この小さなカフェ、店主と客との距離感が近過ぎず遠過ぎず、いいお店です。
国府からは名鉄沿いに南東へ向かうと工場が並び、経済活動が盛んな印象になってきます。ここいらで北へと向きを変え、豊川市にあるお気に入りの小さなカフェへ向かいました。


住宅街の小さなカフェ


アップルパイ

半月ほど前に一度訪れただけなのにママさんは私のことを憶えてくださっていました。今回はおすすめというアップルパイを注文。注文されてから焼き始めるので20分お待ちくださいと言われましたが全然構いません。おいしいもののためなら(笑)
果たして供されたアップルパイは... もう言葉が出ないほど素晴らしい。有名店や量販店のものと比べるとあっさりしていて香りもコクも甘さも控えめで、味気ないという感想をお持ちの方々もいるかと思いますが、ゆっくりじっくりと味わえば、すべてが手づくり、すべての素材が厳選されていて、すべてに手間がかかっていることがわかります。ママさんすごい。アップルパイを通して愛情、隣人愛というか人類愛というか、生き物愛のような大きな愛情が伝わるようです。
何も構えることはない。恰好つける必要など何もない。ママさんとおしゃべりしつつ、ただひたすらレシーバーとして、心を無にして大きな愛情の海に浸りきって身を任せてしまえばよろしい。 気づくと既に2時間近く経過していました。すっかり長居してしまってすみません。もう現実に戻って帰らないと。
また来ますね、そう言ってカフェを後にした私たちは、豊川稲荷まで行こうかと思っていたのに面倒になり、ひと駅手前の稲荷口で止めて輪行作業を開始しました。

約1年ぶりになる輪行作業、手順を忘れることはなかったものの、たいしたことない作業にもかかわらずやはり手首が痛い。現代人はスマホやPCで手指を使うことはあっても、日常いかに手先を使っていないかを痛感します。
稲荷口駅から名鉄に乗車 改札口近くで妻と2人それぞれに輪行作業を続けていると、電車から降りてきた高齢の女性が話しかけてきました。
「んーここで自転車直してるんか。わたしの自転車ここへ持ってきたら直してくれるか?」
これは輪行といって、電車に自転車を載せるのに分解して袋に入れるんですよと説明すると、ああ、ほーかと半ば不思議そうな、残念そうな表情で去っていかれました。
手首の痛みをこらえつつ、やっと作業終了。改札を通り、ホームまで輪行袋を運びます。よかった、何とかできた。
輪行作業はどうしたって少なからず自転車が傷つくことがありますけれど、こうして電車を利用することで行動範囲が拡がり、自転車の楽しみが増えると思います。

最寄駅に着くとまだ明るい。気を抜かないよう焦らずに走り帰宅。
日が長くて助かります。いい季節になりましたね。
                           (おしまい)