小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2021/07/11

ARAYA Diagonale インプレッション(2016年モデル)

通勤だけでなく近所を移動するのに運用していたGIANT DEFY3が2015/10月に対向右折四輪車との事故で廃車となってしまい、近場の移動用にと、ロードバイクとは趣向の異なる車種をと選んだのが、このARAYA Diagonaleです。当初は近距離や街乗り用として使っていましたが、中距離くらいまで、たまに輪行し遠出もするようになっています。

ロードバイクやクロスバイク、特にスピート志向のいまどきのサイクリストは見向きもしないでしょうし、クラシック車を好むマニアにとっても対象には入らない類の自転車です。懐古的ルックな低価格ファッションバイクであり、走りは二の次と見られてもしかたないかもしれません。

近年のロードバイクやクロスバイクと比べると、次の特徴があって、外見やスペックだけで敬遠してしまう方々も少なくないでしょう。
 ・13.4kgもある重量:
   今どきのクロスバイクの廉価モデルより重く、いかにも走らないイメージ
 ・変速がダブルレバー:
   手元変速と異なり、変速時は片手運転になる化石のようなシステム
 ・マース型ハンドルバー:
   最新のアナトミックタイプに比べ、どう持ったらいいのかわかりにくい
 ・ブランドパーツとは無縁:ロード系ほぼローエンドのSHIMANO CLARIS採用
 ・ハイテンフォーク:カーボンどころかクロモリでもなく、何が良いのか不明
 ・やや太いリム:リム幅が19mmあり、25C以下のタイヤは選べない
 ・地味なカラー:ビビッドなカラーやマットカラーとは無縁

では本当にルックスだけの自転車なのか、約3年使い込んだ印象を載せていきます。
diagonale まず低速域から。
重量級なだけあってゼロ発進は重い。ですがフレームの剛性がたっぷりあるせいかそれほど苦にはなりません。
クロモリフレームにもかかわらず、乗り心地は意外に良くありません。しっかりしていてカタイ感触があり、アルミフレームのGIANT DEFY3のほうがマイルドだった気がします。アルミのキンキンする感触ではなく、ドシンガタン。ユル〜い乗り味を想像していましたが、あまりユルくありません。以前乗っていたAnchor C9のほうがもっとユルかったように感じます。こうした乗り心地も、乗りこんでいくうちに慣れます。アルミやカーボンに比べて振動の出かたが人間に合っているような気がします。人間とスチールとの付き合いのほうがはるかに長い歴史があるからでしょうか。まったり走っていて気分が良い、貴重な車種でしょう。

次に中速域。
速度を上げたり、路面がやや荒れると乗り心地も悪化するのが一般的で、アルミフレームのGIANT DEFY3では徐々に跳ねるような挙動が現れます。ですが、このARAYA Diagonaleは乗り心地がほとんど悪化せず、しっかりしていて安心感があります。フレームの重さや剛性感、それに少々重めのタイヤ:SCHWALBE DELTA CRUISERが貢献しているようです。
ダウンチューブに取り付ける伝統的なダブルレバーの変速を体感するのは、個人的には約30年ぶり。当初少し心配していましたが、変速操作は体が覚えていました。戸惑うことはありません。慣れれば目線を前に向けたまま、レバーを見ずに変速可能。
昔々のフリクションタイプとは違うインデックスタイプはダイレクト感たっぷり。神経質なところがなく、想像よりもデメリットが少ない。ほぼすべてのロードバイクに採用されているデュアルコントロールレバーが四輪車のパドルシフト的だとすれば、このダブルレバーはまるで3ペダルのフロアシフトマニュアル車のようです。上り坂でも急坂でも変速できます。直進性が良く安定しているフレームのおかげでしょう。
タイヤが走行抵抗になる感触は薄く、SHIMANO CLARISのハブは予想外に滑らかに回り、巡航時の満足度があるほうだと思います。

少々頑張って走ってみると、
もともとスピードは求めない目的で購入したARAYA Diagonaleですが、中速域からさらに加速していっても安心感が続きます。踏み込んだ時のレスポンスも良く、重めのギアでもそこそこに加速していきます。確かに頑張っていると身体に反動が来ますけれど、アルミのようなキツイ反動ではなく、スチールの慣れ親しんだ感触です。
でも調子に乗ってハイペースを続けると相応に体力を消耗します。ロングライドする場合はペース配分が大事になるでしょう。
こまめに変速しなくとも走れる性格ですけれど、それでも急な下りではさすがに変速が苦手で、そこまで飛ばす車種ではありません。また、少々遅いロードバイクについていくような走り方をすると、鋭角に曲がるようなカーブではステアのレスポンスが如実に遅れ、ヘッド周りの剛性不足を感じます。というか、そんな走りをする車種ではありませんね。
重量級のわりには短い登坂ならそれほど失速せず、ダンシングでの反応も悪くありません。もっとも長い登坂では重量に応じた速度に落ちてしまいます。

カスタムについて
当初私もそうでしたが、一般的にはまずダブルレバーを手元変速のデュアルコントロールレバーに換えようと考える可能性が高いのではないかと思います。 ダブルレバー 私の場合、乗り込んでいくうちにダブルレバーに慣れてしまい、交換する必要を感じなくなりました。むしろダブルレバーのダイレクト感が好印象で、デュアルコントロールレバーへ換えるとダイレクト感が幾分失われる気がします。 初期装着のタイヤ:SCHWALBE DELTA CRUISERもこのDiagonaleによく合っています。やや重いですが頑丈で、多少の段差にへこたれず、固すぎず、ほどほどにスピードも乗って、グリップも悪くないと思います。
しかしこのタイヤ、外すのもはめるのもひと苦労。リムの形状も影響しているのか、これだけ手応えがあるタイヤは久しぶりです。指先の力が弱い方々には無理かもしれません。出先でパンクしたら大変です。スローパンク防止のためにもリムテープやチューブの定期交換を怠るべからず。いずれ別のタイヤに履き替えようと思います。

初めからフレームやパーツがよく調和していて、あまりイジる必要が無いと感じていたものの、ハンドルやステムをはじめ、リア9速化にクランクまで換装した結果、ますます走りやすくなり、より愛着が沸いてきました。

旅に連れ出してみて
旅先で効率的に距離を稼ぎ、時にはスポーツ性だって楽しむようなロードバイクを利用する旅のスタイルとは違います。自転車と対話し応答を確認したり、区間タイムや獲得標高を仲間と競い比べたりするような、スモールワールドには向いていません。
ARAYA Diagonale
路面状況とか自転車自体の反応性に気を使うのではなく、もっと周囲の情報を吸収し調和しつつ旅を楽しむ性格です。
先進性や鋭いレスポンス、カッコよさとは無縁な反面、抜群の安心感を誇り、雨天をはじめ荒れた路面など悪条件に比較的強く、登坂中もしっかりとした直進性が頼もしい。落ち着いてダブルレバーを操作できます。

周りの状況に十分配慮する必要がありますが、走行中に片手をずっとハンドルから離したまま、フロントバックのマップケース内に重ねた紙の地図を取り出して差し替えるときもふらつくことがないのは素晴らしい。また、フロントバッグやサドルバッグに重い荷物を積んでもあまり操縦性が変化しないのも美点の一つ。重量級の割には10%を超える上り勾配も、ペースは上がらないものの粘りながら上っていきます。
ただし荷物を積むと15%前後以上の急勾配を下る際だけはブレーキの効きが甘く感じます。止まれないことはありませんので、飛ばさず慎重に下れば問題ありません。
ほかに、高価な自転車と違って、雨に濡れても泥で汚れても、旅先で駐輪しておいてもそれほど自転車自体に気を使わなくていいことも性能のうちですね。ラクです。よく研究されて製作された自転車だと思います。

輪行について


フォーク抜き作業不要


L-100輪行袋に収納

前後フルサイズのマッドガードを備えることから輪行する際はフォーク抜き作業が必要かのごとく誤解されるケースもあるかもしれません。フォーク抜き作業をしたほうがコンパクトに収まるでしょうが、フォーク抜き作業しなくても輪行は可能です。
私が使用する輪行袋はオーストリッチ L-100輪行袋超軽量型。輪行時には所謂タテ型になり、持ち込んだ列車内で邪魔になりにくいタイプです。
JR特急のデッキへ置いた場合 前後輪を外してエンド金具を取り付けるだけの、一般的なロードバイクの作業に加え、ARAYA Diagonaleの場合はリアの分割型マッドガードを外す作業と、ハンドルステムのボルトを緩めて90°回転させる作業が必要になるだけ。4mmおよび6mmの六角レンチを使います。
私の場合、ゆっくりと作業して作業時間は約25分。フロントバッグやサドルバッグ着脱と、手についた汚れをウエスで拭う時間も含みます。フォーク抜きしないことで輪行のハードルは俄然低くなると思います。
輪行するとどうしたってあちこちに傷がつくことになりますけれど高価なカーボンバイクではないし、磨いて飾って自慢するマニア向けのクラシック車でもありません。細かい傷を気にせずにどんどん旅に連れ出しましょう。
重量級の自転車なので、輪行袋がズシリと重いことだけはしかたありませんが... ちなみに私のDiagonaleはフレームサイズ500mm。540mmの場合は前述の輪行袋に収まるかどうかは確認しておりません。


今どきのサイクリストにとっては、古くさく、重くて地味すぎるARAYA Diagonale。スポーツ用自転車としては価格も安めで、一部のマニアが好むスポルティーフのような高級感も無く、むしろ実用車に近いかもしれません。
スポーツ系ではなく、レース、ロングライド、フィットネスとは無縁。いざとなれば、ゆったり走るロードバイクにもついていける実力はあるものの、群れないタイプであり、カテゴリー分けや効率、スピードや走行距離などの縛りや概念から自由な自転車だと思います。

旅や散歩などの言葉が似合い、気ままに野山を巡り、ときには駆ける。
ロードバイクもクロスバイクも目まぐるしくイヤーモデルが出て新旧比較されますが、そうした先鋭的な要素がゼロであり、トレンドとは全く関係ありません。
ビギナーには向かず、見た目は安物チックなのに、噛めば噛むほど味が出るスルメのようなる自転車で、走っているときの充実感がたっぷり。
重量級ゆえに思った通りキビキビと走るわけではありませんけれど、あまり頑張らず慣性で進む感覚にほっとするようでもあります。ラクではないものの、強風や酷暑、雨、疲れてしまったときなど悪条件の下でこそ、それなりに頼れて走れる、父性的なキャラクターを感じさせる自転車。
マーケティングとか、ニーズに合った企画商品でないでしょう。一部のマニア向けでもなく、本当に自転車好きが造ったことがわかります。
あれこれ経験してきて、トレンドとかスペックとか最新コンポとかイベントとかもういいや、というベテランの、アガリの1台として良い候補かもしれません。

[追記 21/7/11]
購入してから6年近くになります。RALEIGH CRN(遠出用)と、RALEIGH RFL(ご近所用)も所有しているので出番がないかと思いきや、意外にそうでもありません。暑かったり寒かったり、向かい風だったり雨が降りそうなときなど気象条件が悪いときや、体が重かったり気分が乗らないときなど、気負わずにフラリと走り出せます。

ARAYA Diagonale 確かに走りの面ではパッとしません。
加速も、ハンドリングも、制動も、応答性は鈍く、速く走ろうとしても思ったようには反応してくれません。ですが反応しないわけではなく、定速巡行性はわりと優れているように感じ、おっとり粘り強く進んでいきます。疲れてしまったとき、気持ちが切れてしまったときも、それなりに走り続けられるところは現代のロードバイクには見られない特性かもしれません。
もっとも、自転車との対話は薄く、味わいも無いといっていいでしょう。フレームもパーツも、高級でも高性能でもなく満足度は低い。特別扱いする必要はありません。
路面にあまり気を遣う必要がなく、ダートにも躊躇せず入れてしまいます。走りはそれなりですけどまずまず安定していて不安な挙動もなく、石がハネて車体が少々傷つこうが構わない道具感が一つの美点。
走ることそのものを目的にする必要がなく、目立たないルックスと相まって、スーパーやコンビニ、カフェや老舗喫茶、書店や100円ショップに立ち寄れます。
わかりにくいキャラクターですので、仲間と連れ立って走るというようなシーンには向いておらず、わかる人だけが選べばいいという孤高の、貴重な存在だと思います。