小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2020/02/09

冬の名古屋中心部ゆるポタ 2019年12月

師走─ この忙しい時期の平日に仕事を休んでしまいました。特に大きな変化があったわけではないのに、同調圧力とか相互管理とか、前月から何かとストレスを感じるようになってきています。いい歳して、ついていけない。
あまり行ったことのない、知らないところへ行ってしまいたかった。厳しい自然もいいけれど、雑然とした街がいい。そんな理解不能な気持ちから、名古屋中心部をゆる〜く走ってみました。


最寄り駅で自転車を輪行、名古屋駅で降り、改札を出ると年末ジャンボの売り場が並んでいます。そんな時期なんですね。若い頃は夢を求めて何度か買ったこともありました。あまりに何も当たらないのでもう買っていません...
日差しはあるものの、北風が吹きつけて寒い! 当日の最低気温5℃、最高気温の予報9℃。まるでサイクリングには向いておりません。
たくさんの人々が行き交うセントラルタワーズやゲートタワービルの真下で、少々気が引けながら自転車を組み立てます。


名古屋駅で自転車を組み立て


駅西銀座

今回のお供はARAYA Diagonale。スポーツサイクルとしては重量級ですが、効率とは縁の無い、ゆるいポタリングに向いている気がします。歩道を闊歩する厚着した人々や、人混みを縫って走る地元のママチャリの邪魔にならないようヨロヨロと進み、賑やかな駅東側ではなく西側に出て、訪れたことのない西側地域をのんびりと走ります。椿神社を通り、中村区役所付近へ。
開発が進んでいると聞いたことはあるものの、大規模施設は見当たらず、小規模の商店と住宅が混在した、生活感たっぷりの雑然とした雰囲気。初めて訪れたのに何だか懐かしい。中学生の時分まで住んでいた、当時の東京の下町に似ている気もします。
気持ちがほぐれた後に進路を北へ向けると、北西の強い冷風に震えが止まらなくなってしまいました。住宅街の一角に、お目当てのインド・パキスタン料理のお店を発見。さっそくランチをいただきます。


インド・パキスタン料理店


マトンのビリヤニ

マトンのビリヤニセット通常サイズをチョイス。スパイスが効いてはいますが妙な味は付加されてなくウマイ! インディカ米に野菜や卵を混ぜてスパイスを加えた料理がスッと身体に馴染み、日本というよりもアジア圏を感じます。私自身のDNAにもアジアが刻まれているのでしょうね。
添えられたライタも実に自然な風味。多少ワイルドな風味を期待していたマトンは骨付きながら、下処理が良いのか臭みなど全く無く、脂身の無いヘルシーなお味。大変満足いたしました。店長らしき方に話を伺うとここで営業してもう20年になるそうです。妙に凝ってない料理が、長年にわたり支持されますね。

食後は進路を東へ。ちょうど名古屋駅を時計回りに迂回するように進んでいきます。新幹線のガードをくぐり、ノリタケカンパニーの森を過ぎて堀川沿いへ。


円頓寺商店街


四間通

師走の名古屋市中心部を走っているというのに、ちっとも大都会に来ている感覚がありません。四間道には小さなカフェもいくつかあり、静かで落ち着いた空気でした。いずれまたゆっくり来たい。
午前中は時折日が差していましたが、もはや空は雲に覆われ、真冬らしく気温が上がりません。


納屋橋


白川公園

納屋橋から東へ、広小路通を伏見まで。高いビル群が並び、大都会の雰囲気満点。伏見通を南へ、白川公園へとゆるゆる走ってきました。そこそこの広さがあって、適度な緑が気持ち良い。やはり繁華街よりは自然のある公園が落ち着きますね。


大須観音


新堀川沿いを南へ

平日も賑わっている大須商店街を見物しつつ大須観音に到着、参拝しました。まれに来ることはあっても、境内に入って参拝したのは20年ぶりくらいかもしれません。落ち着きとは無縁な大須商店街ですが、この大須観音境内はゆったりしていました。うまくバランスが取れているような気がします。

気温が上がらないせいか走っていないと寒くてたまらない。大須を出て東別院で東へ向かい、新堀川に出たところで南進していきます。片側3車線の道は走りやすくも東邦ガスや日本ガイシの大規模施設が並び、ちょっとした工場群気分を味わえます。しばらく走ってから新堀川を離れ、熱田神宮へやってまいりました。この日の最終目的地、神宮前商店街であります。


神宮前商店街


ブレンドコーヒーとメロンパン

開発から取り残されてしまったかのような、昭和な雰囲気がたまらなく、懐かしい。幼少時分にたまに訪れていた、当時の東京・大森駅近くの池上通り商店街に似通っている気もしました。
冷え切った体を休めるところを探し、小さなコーヒースタンドに入ってみました。注文したドリップコーヒーを待つ間に、店主の了解を得て隣のお店でメロンパンを購入、コーヒースタンド店内に持ち込んで温かいコーヒーと一緒にいただきました。
椅子が2脚しかない店内は、新しい内装ながら古めかしいレジスターが存在感満点。天井からは帆船を模した凧(カイト)が下がっています。店主によると海外製で、実際に飛ばすことができるそうです。かなり風の強い日でないと難しそう。でもうまいこと風に乗って空に上がれば、普通の凧とは違った優雅な姿を見せてくれるのかもしれません。親しみやすい、気さくな店主とコーヒー談義やら、あちこちの飲食店の話やら、すっかり楽しく過ごさせていただきました。ありがたいことです。

今回のゆるいポタリングはここで終了。あとは神宮前駅で自転車を輪行して帰りましょう。時刻は午後2時。最寄り駅まで電車で移動し再スタートすれば、輪行と組み立ての作業時間を含め午後4時ごろ、暗くなる前に帰宅できるはずです。


(おまけ)

ここまで走行距離15kmほど。何となく物足りない気分に陥ったのは、お昼に食べたスパイスたっぷりのビリヤニのせいか、それとも比較的長距離に向いているARAYA Diagonaleのせいなのか。いっそのこと自宅まで走って帰ろうか... なぜか突然思い立ったのです。一度も走ったことがないのではっきりとはわかりませんが、おそらく40kmもないでしょう。
しかしどう考えても合理的ではありません。
この日の最高気温9.4℃、気温は下がる一方。寒さだけでも体力を消耗します。それほど長い距離ではなさそうなものの、通常よりも消耗するでしょうし、疲れても戸外では休憩できない寒さ。
さらに過去自走したことがなく土地勘の無い地域が続くこと、何より厳しいのが、ナビもスマホも、地図さえも持ち合わせていないこと。
常識的に予定通り輪行して帰ることで寒さや疲労、日暮れ後の時間帯を回避できる。なのに、なぜそう考えるのかわかりませんが自走する気満々になっていました。
それは本能的な衝動というよりも、意味不明な自信というか内なる声、いえ、まるで何かに導かれているかのようでした。合理性や常識、効率とは全く相容れない行動、常人には完全に理解不能でありましょう。
「走って帰ってみようかな」そうコーヒースタンドで呟くと、案の定店主は信じられないと言った後「でも北西の風にうまく乗れれば行けるかもしれませんよ」だって。
世間の波とかトレンドに乗ったことなど無い私ですが、ひょっとしたら今日くらいはうまく乗れるかもしれない、なあに、線路沿いに進んで挫けたらその時点で輪行し電車で移動するだけさ。それに地図が無くたって太陽の方角を見て進路を確かめればいいじゃないか。


ついに走り始めました。熱田から瑞穂へ。初めから線路沿いを走ろうとするとうまく道がつながらないかもしれない。まず東へ進み、しばらくしたら南進すればいいか。

冬雲が流れてきています。鉄路は遠くなり、気づいたときにはもう見えなくなっていました。瑞穂通7、ここはいったいどこだろう? 交通量の多い幹線道路を避けると、まるでわからない。釜塚町?聞いたことの無い地名です。空はすっかり雲に覆われ、太陽の方角といっても肝心の太陽がどこかわかりません。微妙に雲の薄い箇所があり、そこは明るくなっていたりしますが太陽の方角とは関係ない気がします。
地図を見たい。書店があればすぐにでも飛び込むのに、こんなときに限って全く見つかりません。天白川に出ました。アカン、川の流れがどういう向きなのかさっぱりわからん。とりあえず川下に向かって進めば南下の方向だろう。
ん? 何となく見たことがあるような道... あっ、野並だ。過去数回車やオートバイで、サイクルショップに来たときに通ったことがある道です。しかしいずれもナビの通りに来たのであって、途中経路を憶えているわけではありません。
このまま東へ進むとそれなりにアップダウンが待っていたような... 今は体力の消耗を少しでも防ぎたい。南方面へ行ってみよう。
ところが南へ進んだ道は左へ右へ左へカーブし、次第に標高が高くなっていきます。もういいや、どうにでもなれ、と進んでいくと篠の風という地名に見覚えがある道。確か細かくアップダウンを繰り返すはず。できるだけアップダウンが少なくなるようにと住宅街を行ったり来たり、ぐるぐる迷った末にけっこうな下り坂を進み、オートバイ用品店:緑2りんかんに着きました。もう冷え切ってダメです、トイレをお借りします。


2りんかんでトイレ休憩


中京競馬場そば

しかしオートバイ用品店にサイクリストは完全にそぐわないし、ゆったりできる場所は無い。そそくさとその場を出発しました。ここまで来ればひと安心。何度もオートバイで来たことがありますから。
だいぶ疲労が溜まってきました。でも疲れてしまっても、それなりに進んでいけるのがツーリング車。ここからがARAYA Diagonaleの本領発揮だなとわけのわからない考えが頭に浮かんでまいります。
空は分厚い雲に覆われ、気温は下がる一方。風もあって戸外で休むなどありえない。中京競馬場そばを通り、豊明市街を抜けて境川を越え、刈谷市へ。そうだ、このまま進むとアップダウンがある。もう少し国道1号の方向を目指そう。 伊勢湾岸自動車道の刈谷ハイウェイオアシスを横目に見ながら、高架下の県道を走っていきます。が、車道はまっすぐ走れても歩行者自転車は随所で道がちょこちょこ寸断されていて走りにくい。
高架下の県道も行き止まりに、迷っていると旧道の名古屋岡崎線に出ました。もう大丈夫です。それにしても疲労困憊で脚が限界であります。ろくに休憩しないまま厳しい寒さの中を2時間以上、さすがに休むべきでしょう。見つけたカフェに飛び込みました。
入ってみると、地元マダム御用達のお上品な雰囲気。そこへ冷え切って凍え、鼻水を拭いたオッサンが来たのですから、そりゃあ皆様引いてしまいますね。でもこの辺りでほかに行くところは無さそう。できるだけ迷惑にならないようカウンターの隅に腰掛け、体を温めて糖分を補給させていただきました。


シフォンケーキとクレープのセットを


日没時刻を過ぎました

休憩後、自転車にバッテリーライトと尾灯を装備して出発。気温表示は8℃。後は知ってる道を進むだけ、心は軽い。帰宅した頃にはほぼ真っ暗になっていました。この日の走行距離推定60km弱。やったという達成感もあるにはありますが、それよりも何か私の中の奥底、無意識の部分が解放されたような気がします。真冬並みの寒さの中、季節風にうまく乗れたのかもしれません。

ちなみに帰宅後、私の表情が妙に晴れ晴れとしていたらしく、何かいいことがあったのかと妻に問われ、名古屋から自走してきたと正直に答えたところ、妻は半ば絶句、呆れかえっておりました。「はぁ? あんたはバカか? 頭は大丈夫なんか? 自走だなんて意味がわからん。ああ、ほんと、頭の弱い子みたいやで」

自走したところで何もいいことはありませんでした。でも何かこう、ヘンな自信はついた気がします。なあに、名古屋にいて何かあったら自走して帰ってこれるさ...
                           (おしまい)