小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2010/11/28

ランドナーを選択しなかった理由

2009年12月末、自転車での旅を充実させるために選んだ、Anchor C9。
しかし、ランドナーに分類される車種ならツーリング、特にゆっくりと長距離を旅することが得意で、私のような使い方には最適なはずです。
自転車で旅をするのに、なぜランドナーを選ばなかったのか。
個人的な思いを綴ってみます。

ランドナー(randonneur)とはフランス発祥のツーリング用自転車で、流行のロードバイクやクロスバイクとは異なり、小さい径のホイールを装備し、太めのタイヤを履いた自転車で、長いマッドガードを装備し、ほとんどの場合、フロントキャリアの上にフロントバックが鎮座している状態で運用するのが特徴です。

中でもクラシック志向の方々は、美しいラグのクロモリフレームにこだわったり、ブルックスの皮サドルやマファックのブレーキレバーなど、パーツのブランドを自慢したりと、時に異常ともいえる愛着の湧く対象にもなることもありますけれど、それも この種の自転車が持つ、“旅” へといざなう雰囲気にロマンを感じるからなのかもしれません。

かつての姿 私は別にランドナーが気に入らないわけではなく、むしろその逆。かつてランドナーに乗ってあちこちを走った経験があり、むしろランドナーの良さを十二分に知っているつもりです。
路面コンディションを選ばない安心感、荷物を削ぎ落とさなくてもいい積載性、サイクリスト以外に威圧感を与えない、控えめな佇まい。 そして何よりも、あの、安心できるというか、ほっとできる乗り心地と、先を競わない ゆとりがすばらしい。

ではなぜランドナーを選択しなかったのか?
ひとつひとつ理由を挙げるより、ランドナーとともに過ごすサイクル・ライフを空想してみたほうが話が早いと思い、以下、妄想を書いてみます。

(あくまでただの妄想であり、私の主観にもとづく個人的な使い方。
 一般的ではないであろうことをお断りしておきます)

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私はとうとう旅に最適な自転車:ランドナーを手に入れた。
日本メーカーの完成車だ。しかも新車。
もちろん高名なハンドメイド工房でオーダーできれば、喜びは頂点に達するだろうが、私にとってランドナーは旅の道具であり、相棒。ランドナーというスタイルは必要だけど、高価な芸術品である必要はないし、仲間うちでの品評会の対象になる必要もない。クラシックパーツのウンチクなども、旅には不要だと思う。もちろん予算も抑えたい。
特筆すべきものが無い新車で、すべてのパーツが今どきのスタイルではないものの、仮に故障してもすぐに代替パーツがあり、消耗品の心配がないのはありがたい。
長く乗れそうだ。

前置きはこのくらいにして、定番のフロントバックを装備し、早速走り出してみよう。
ああ、これだ、この乗り味。ロードバイクともMTBともクロスバイクとも違う。程よく柔らかく、実に快適。途中、ロードバイクの集団に抜かれたりもしたが、そんな、他人のことが全然気にならない。自分のペースで走れるのだ。

ランドナー 車では走りなれたはずの道。途中、いつもは気づかなかった、細い横道へそれてみる。交通量がほとんど無い反面、舗装が荒れ、砂利が浮いているが、ランドナーの太めのタイヤなら何の心配も要らない。少々の障害物なんて避けなくていいのだ。だから移りゆく四季の景色に集中できる。何でもない川べりに、ほのぼのとした情景を見つけることができるように。

道は上り坂になった。軽くはない車重に、太めのタイヤ。一気に上るような走りかたは もちろん合わない。ペースを落とそう。クラシックなダブルレバーに手を伸ばして変速する。
カチッ。さすが部品が新しいだけあって変速タッチが良い。しかし... 昔と違う。
昔と違ってリアのスプロケットがクロスしているため、ランドナーのような走り方の場合、1段程度では意味をなさず、2〜3段まとめて変速しなければならない。
現在のロード/クロスバイク用のコンポーネントは こまめに変速することを前提につくられており、ハンドルから完全に手を離して操作するダブルレバーにはあまり向いていないようだ。

私がランドナーに乗る場合、こまめな変速はしないのでワイドレシオが好み。
近所へのポタリングから戻った私は、仕方なくMTB用のコンポーネントを導入することにした。本当はリアのスプロケットがせいぜい5〜6段で十分なのだが、現在のMTB用は9速。そこへワイドレシオとくるのだからロー側が32Tという巨大なサイズになってしまい、また、リアディレイラーも長大なロングゲージ仕様となるため、ランドナーの美しさが失われてしまう。でも乗り味には代えられない。逆にスーパーローなギヤ比が装備できたので、貧脚の私には好都合と考えればいいのだ。

次に少し遠出をすることにした。
現代的に、目的地の近くまで車で移動する。ただし自転車の積載が課題。ルーフラックに載せたり、自転車をそのまま乗せられる大きいワンボックスなら何も問題ないが、あいにく私のマイカーは2BOX。リアシートを倒せば、そこそこの空間はつくれるけれど、自転車の前後ホイールを外す必要がある。さらにランドナーの場合はそれだけではダメ。長さ的にリアのマッドガードがつかえてしまう。
そこで、一体型ではなく、部分的に取り外し可能な分割式マッドガードを装備することにした。これなら作業は簡単。
これで終わりかと思いきや、前後ホイールを外し、両エンドを積載用の台座にセットすると、今度は高さ的にフロントのマッドガード下端がつかえてしまった。さすがにフロントの分割式は市販されていない。そうかといって、マッドガードの下端をカットすると... 美しくない。ランドナーの、大事なサイドシルエットが何とも締まらなくなってしまうのだ。まぁいいや、車への積載は。フロントのマッドガードを丸ごと外そう。面倒だけど仕方ない。

いよいよ自転車旅の王道、電車を利用し、輪行で遠くへ行ってみよう。
ここで少し残念なのが輪行袋。ロード用の輪行袋に入らないのだ。入れられないことはないが、前後マッドガードを外す必要があり、現実的ではない。
仕方なく、やや大きくて重い、MTB用輪行袋を利用する。定石通りペダル、それにリアの分割式マッドガード、ブレーキワイヤーエンド、ハンドルステムを外してから、最後にヘッドを緩めてフォークを抜く。手間はかかるが、コンパクトなサイズになって持ち運べるのだ。

車載に比べ、輪行のほうは ほとんど問題なし。さすがランドナー。と言いたいところだけど、気にならない人にとってはたいしたことではないのだろうが、私はにどうも気になってしまうところがある。
それは輪行状態の前後長。ロード用輪行袋に収めた自転車よりも長いスペースを占有してしまうため、乗客の多い電車内ではもちろん、特急や急行のデッキに置く場合、どうしても通路側に一部はみ出してしまい、乗客の通行のジャマになるのだ。
MTB用のロングゲージなリアディレイラーが、さらにその傾向を冗長していて、自転車を列車のデッキに置き、人間が車室内の座席に座っていても、どうもデッキに置いた自転車が気になってしまう。それでなくても今どきはキャリータイプの旅行鞄をひいて歩く人が多く、勢いよくぶつからないか心配になる。もしリアディレイラーが壊れたら、変速機能が損なわれ、走ることが難しいほどの損害だから。新幹線の3列シート側のデッキなら はみ出さないんだけど。
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このようにあれこれ妄想した揚句、ランドナーという選択をしなかった私。
たぶん輪行関係の懸念が一番の理由だと思います。でも輪行も、車載も、ランドナーへの愛情があれば、どうにでもなることなのかもしれません。
私はランドナー、特にランドナーの乗り味が好き。多少の不便を、手間を楽しみつつ、好きな車種に乗ったほうが自転車とともに過ごす時間が充実するに決まってます。しかし、だからこそリアのスプロケットなど、細かいところにまでこだわってしまうのです。

私の理想は、高校生の時にバイト代をはたいて、吊るしのフレームで自作したランドナー。それまでロードレーサーばかり乗っていた私には、びっくりするほどの快適な、居眠り運転すらできてしまうかのような錯覚を起させる車体でした。どこかへ遠出する機会もないまま、交通事故で全損させてしまった気の毒なランドナー。
もし、あのランドナーが私の手元にあったなら、上述の理由など一気に吹き飛んで、輪行や車載で、あちこち連れ出していることでしょう。