高校英語の創造的な扱い方No.1
英語の学び方を教える
ーーNew Atlas 1 を使ってーー


「新英語教育」2000年4月号掲載

まずは前口上を
 Nice to meet you! これから1年間、愛知西三河サークルが、この連載を担当することになりました。高校の教科書は種類が多く、科目も英語I・II、オーラルA・B・C、ライティング、リーディングと様々。それだけ多様な実践が展開可能です。数名のメンバーが、駅伝の要領でこの連載を担当します。各人が得意な分野で、「楽しくて」「力のつく」英語授業を展開してくれると思います。1年間、よろしくお付き合い下さい。

(1)高校1年の導入
 本稿では、New Atlas I(三友社出版)教科書のLesson 1 "Nice to Meet You!" を教材にする。高校での英語授業のオリエンテーションとして、「英語の学び方を教える」ことに焦点を当てて報告したい。Part 1 は、高校新1年生の彩が、最初の授業で自己紹介と抱負を語っている場面である。

Nice to meet you. My name is Aya Tanaka. I come from Midorigaoka Junior High School.
I live in Shinden-machi. There are five people in my family: my father, mother, older brother, younger sister and myself.
I like to listen to the singing of the birds, and I often go bird-watching. I also like wild flowers. So in the future, I'd like to be a biologist and protect plants and animals.
I hope to read a lot of books and listen to a lot of music during my three years here. I'd like to make the best use of my time at high school.

(2)Chunk とLexical Approach を取り入れて
 田中茂範氏が、認知意味論の立場からチャンクによる「発想の英文法」を提唱している。Chunkという情報のひとかたまりを追加してゆくことで文を作り、それをつないで談話を構成するというものだ。名詞チャンク、動詞チャンク、副詞チャンクの3つに分けて体系化を図っている。
 流れは違うが、同じような発想をイギリスのELT専門家Michael Lewis が提唱している。彼のLexical Approach によれば、連語(prefabricated phrase or collocation) 中心の学習をした方がより効果的だという。そのフィロソフィーは次の3点に要約される。


-The grammar/vocabulary dichotomy is invalid; much language consists of multi-word 'chunks'.
-A central element of language teaching is raising studentsユ awareness of, and developing their ability to 'chunk' language successfully.
-Collocation is integrated as an organising principle within syllabuses.


 チャンクごとに意味を理解し、それをつないでゆく練習を定着させたい。それが、英語を英語の語順で理解するためのステップにもなる。Chunkを意識させるために、こんなプリントを作るのも有効だ。(本文の第3パラグラフの例)


I like to listen
to the singing of the birds,
and I often go
bird-watching.
I also like
wild flowers.
So in the future,
Iユd like to be
a biologist
and protect
plants and animals.


 読解の段階で、生徒の意識をthe singing of the birds, bird-watching, wild flowers, in the future などのフレーズに向けさせたい。
 意味の確認が終わった後で、 "read and look up" の手法を使い、ペアーの朗読練習をする。一人が英語をチャンクごと見て覚え,それを相手の顔を見て話す。聞いた相手は、リピートする。ジャンケンで順番を決め、途中で交代する。パートナーと協力することが、学習の促進にもつながる。
 「通訳ゲーム」と称して、chunkごとに一人が英語を読んだのをもう一人が日本語に訳すとか、その逆に日本語のチャンクを言ってそれを英語に直して言ってみるとかの応用パターンが可能だ。

(3)単語ネットワークと辞書指導
 Vocabulary に関してELT研究者のDavid Wilkinsが "Without grammar little can be conveyed; without vocabulary nothing can be conveyed."と語っている。また、COBUILDの編集主幹だったJohn Sinclairも "A lexical mistake often causes misunderstanding, while a grammar mistake rarely does."と語り、共に語彙の重要性を認めている。
 そこで、高校入門期にもうひとつ力を入れたいのが、語彙指導である。基本動詞ほど多義的で、その全体的イメージを理解し、使い切るのが容易ではない。また、高校3年間で数千の単語が登場するが、なかなか定着しないのが現状だ。
 どうやって語彙を増やすか、そのノウハウが今求められている。文法的な制約のない名詞を覚えるのが効率的という説もある。語源や派生語とあわせて「単語ネットワーク」も活用したい。このパートでは、自己表現のために「将来の職業」に関する語彙を提供したい。生徒に日本語でもいいからどんどん言わせ、それをネットワーク化するのも一方法だろう。
 

 英和辞典も少しずつ授業でも使いながら、その活用法に慣れさせたい。最近の辞書には、様々の工夫がなされている。発音のカタカナ標記、語義を本義と分義に分け図式化、コロケーションの明示、日英語の比較、と読みごたえのある情報が満載だ。入学と同時に辞書を買わせることが多いが、その利用方法を余り教えてないのではないだろうか。将来の自立学習のためにも、系統的な辞書指導をする必要がある。

(4)音読の効果・効用を体験させる
 文化人類学者であり、同時通訳者として活躍された國弘正雄氏が新著で、「只管朗読」の効用を harp on the same stringされている。英語を内在化させるために、意味の分かった英文をひたすら音読することの効果は、どれだけ強調してもし過ぎることはない。氏の志操の高さとあわせて生徒に紹介したい。
 予備校講師の今井宏氏も、ある参考書の中で自己の体験をもとに音読の効能を語っている。要約すると次のような内容だ。
 高校3年の時、英語の成績が悪く悩み、先生に相談したところ「高1から高3までの英語のリーダーを、受験までに合計50回は音読しなさい」というアドバイスを受けた。それからひたすら音読三昧の日々、最初は惨めで発音もアクセントも滅茶苦茶。それが3冊の音読が10回を超えた頃から変化が現れた。英作文がスラスラ書けるようになった。20回を過ぎた頃には速読力が付いてきた。返り読みしないで、目にした順番に理解できるようになった。30回を過ぎる頃には、加速度が付き、聞こえた順に意味を理解するリスニング力が付いた。その勢いで、古文も日本史も音読を繰り返した。その結果、半年前の模擬試験ではE判定ばかりだった目標の大学に合格してしまったという。
 もちろん、音読は、意味を掴むための読解をきちんとしてからの事だが、言葉はinternalizeさせなければ、身に付かないと言うことを強調したい。
 
(5)自己表現でしめくくり
 最後の仕上げは、教科書の本文をまねて自己表現をさせたい。スピーチの形で発表させ、余裕があれば文集の形でまとめる。教師も自分の夢や抱負を語るチャンスだ。
 さいわいにも、本文の表現をかなり利用して「自己紹介」の英文が作れる。I like to〜. Iユd like to 〜. I hope to 〜. などを使わせたい。ことばは「こと」と「こころ」を他者に伝える手段だということが実感できる。
 
(6)教師の英語修業を楽しむ
 生徒に教えるだけでなく、教師自身が学ぶことが目に見えない影響力を与えるはずだ。教材に関してもアンテナを高く張り、英語曼陀羅世界を探検しよう。インターネットという便利かつ強力な情報検索ツールが使える時代だ。
 私も昨年暮れにSky Perfect TV に加入して、BBC World, Sky News, Discovery Channelの3つに契約をした。最初の2つはどちらもイギリス発のニュース番組だ。個人的にイギリス英語やヨーロッパの視点を知りたいから。3つ目は世界の文化や歴史、最新テクノロジーなどの教育番組を流しているからだ。書斎にいながらにして24時間海外からのテレビが観られる。しかも、毎月単行本1冊の出費で済む。その昔、フェージングの激しい短波ラジオで海外放送を聴いていた時代とは隔世の感がある。
 英字新聞も購読したい。私のお勧めはThe Daily Yomiuri。月曜日は英語教育、火曜日はインターネット特集がある。また、アメリカを代表する新聞のLos Angles Times, Washington Post, イギリスの新聞The Independent のWeekly Review が、それぞれ月曜、金曜、日曜に付録として付いてくる。違ったperspectives が得られるのが楽しい。
 Let's practice what we preach and teach!

参考文献
1.『発想の英文法』 田中茂範著、アルク、1993
2.『國弘流英語の話しかた』國弘正雄著、たちばな出版、2000
3.『パラグラフリーディング(1)スーパー速読編』今井宏著、代々木ライブラリー、 1999
4.Lexical Approach by Michael Lewis LTP, 1992



英語の授業 にもどる