働くおっさん人形 第1回 野見隆明

喫茶店にて。
おっさんが席に座るところから始まる。
インタビュアーである松本の姿は写らず、おっさんだけが映っている。
白いスーツ姿のおっさんは、どこかおどおどしている。
松本は面接官のように、終始感情を押し殺した受け答えしかしない。

※松=松本人志 野=野見隆明

松:じゃあ、早速お話聞かせてください。

野:はい

松:じゃあ、まずお名前と年齢を。

野:え、野見隆明45歳です。

松:のみ・・ってのはどういう漢字ですか?

野:え、野原の野に見るの見ですね。

松:血液型と星座は?

野:えーと、A型で・・・おひつじ座です。

松:A型っぽいですか?

野:(笑いながら)そうですね。うん。

松:(冷静に)どういったところが?

野:うーん・・一応几帳面っていうのがあれ・・結構取られてますからね。

おっさんの後ろの壁に撮影機材の影が入り込んでしまっている。

松:え、ちょっとあの、ブーム、ちょっと、こう入るな、影。

ス:は、裏に入ります。

沈黙が続く。この間おっさんは緊張した顔で待っている。
おっさんの顔面がズームアップされる。

松:(小さい声で)あ、ちょっとすいません。

野:(小さい声で)はい

松:血液型と 星座は?

おっさんがファーストベースでボールをキャッチする映像に切り替わる。

野:え、A型で・・・おひつじ座です。

松:どんな性格って言われます?

インタビュー画面に戻る。

野:(にこにこしながら)え、えっと、明るく楽しい性格。

松:お仕事は何をなさってるんですか?

野:え、えーと、絵画の仕事してるんですよ。

松:絵画の?

野:あい。

松:具体的にどういった?

野:えーと、今のげ、現代アートですか、そのーラッセンとかそういう類の絵の販売をしてますね。

松:絵画の?

野:はい。

松:なんていう会社ですか?

野:えーと、アールグラッジュっていいます。

松:え、アールグラッジェ?

野:はい。

松:何語ですか?

野:えーと、それはイタリア語なんですよね。

松:どういう意味ですか?

野:アールっていうのは・・ようするにかい、絵のことをいいますね。えがががががアールってのは・・あの、うちにはとにかく、癒し系の絵なもんですから、そのー、人の心をいや、癒すね・・・みなさんおいそ御忙しい時に絵の・あれを見ながら、絵を見ながら、リラクゼーションアートって感じなんですよね。そういう絵なんですよ。

松:高いんですか?

野:(笑いながら)うーん、やっぱりピンからキリまであります。

おっさんがファーストベースでボールをキャッチし損なう映像に切り替わる。

野:ま、安くても大体30万くらいですかね。

インタビュー画面に戻る。

松:高いのは?

野:高いのは大体原画で・・え、1000万近くもありますし、

松:すごいですね。

野:はい。

松:テレビ番組なんか、必ず見る番組っていうのはありますか?

野:(笑いながら)あ、今はもう、巨人戦ですね。

おっさんがファーストベースでボールをキャッチする画面に切り替わる。

松:野球が終わってしまってもう、つまらないですね。

野:いや、まだまだこれからですね。日本シリーズがございますから。

インタビュー画面に戻る。

松:どっちが勝ちますか?

野:(笑いながら)やっぱ巨人でしょう。

松:・・・・。

野:う、まあ、うよようするに西武と巨人で大体・・5、5勝4、ろ、5勝くらいするんじゃないですかね。

松:5勝したら勝ちでしたっけ?

野:えーとあれはろ、7戦ぐらいですね。確か。

松:5の2ってこと・・

野:そうですね。

松:・・・・・・・。いや、5の2は有り得ないんじゃないですか?

びっくりしたような表情をするおっさん。

野:う?

松:7戦やったら4勝したら勝ちですよね?

野:あーそうだ。

困惑した表情をするおっさん。

松:じゃあ4勝で。

野:4勝で。

松:巨人が。

野:はい。

ここでインタビュー画面から切り替わり、おっさんの顔と名前がプリントされたTシャツ姿の松本が映される。

松:こんな感じの野見隆明さん45歳ですが、この話の流れで普段思っている思いの丈を国会に向かって英語で言ってしまうのは実に自然なことでしょう。

アクションシーンに切り替わる

国会議事堂が映され、画面中央に「国会に英語で主張」とテロップが出ている。
国会から少し離れた道かげから国会に向かって主張するおっさんが映る。

野:Hello! Do you know me? My name is Takaaki Nomi , 45. Business? Art Grage, GENDAI art.

極度に緊張するおっさん。横を通行人が通り過ぎ、さらに恥ずかしそうに緊張する。

野:Economy have.(←聞き取れません) Sports? And tennis, valleyball and fishing. fourty-five spirits.

後ろを向き、困惑してスタッフに助けを求めるような顔をする。

野:Economy have.(←聞き取れません)

うなずきながらスタッフの方を見て、そして苦笑いをする。

野:And my name Sayuri Yoshinaga. I love you.

恥ずかしそうにしてスタッフの方を見て、2,3度うなずく。

インタビュー画面に切り替わる。

松:野見さん、それはサングラスですか?

野:いや、違います。これは近眼です。

松:ちょっとメガネ外してもらっても良いですか?

野:あ、いいですよ。

メガネを外し、にこやかな顔をするおっさん。

松:あ、真面目な顔してください。

一瞬にして真面目な顔をするおっさん。

松:メガネしてください。

野:はい。

メガネをするおっさん。

松:どっちの顔が好きですか?メガネしてる顔としてない顔。

野:なんか、会社の友達に言われるのはメガネしてない方が良いって言われるんだけど。

松:じゃあちょっと外してみてください。

再びメガネを外し、にこやかな顔をするおっさん。沈黙が続くがにこやかな顔をし、時々小さくうなづく。

松:見えないですか?

野:(笑いながら)見えないんですよ。

松:じゃあしてください。

野:あい。

メガネを再度かけるおっさん。

松:野見さん、あの、「やっぱ」が口癖ですね?

野:そそそですね。

松:よく言われます?

野:言われますね。

松:誰に言われました?

野:・・・・うーん、やっぱ会社の同僚ですか。

松:(すかさず)今言いましたね?

野:あああ、いや。あい。

松:言いすぎですよ。

野:あ、すいません。

笑って場をなごませようとするが、無反応の松本に一瞬悲しそうな顔をしてまたにこやかな顔をするおっさん。

松:指の骨とかって鳴らせます?

指の骨を鳴らすおっさん。

野:鳴ります。

松:ちっちゃいですね?音。

野:音はちっちゃいです。

松:もっとおっきく鳴らしてください。

困惑した顔で窓のほうを見ながら指の骨を鳴らそうとするおっさん。

野:こっちかな?

大きい音で指の骨が鳴る。

松:ほうほう・・・・今折れたんじゃないですか?

野:(指を動かせて見せながら)大丈夫ですよ。

松:折れてないですか?

野:ううう全然。

松:痛かった?

少し動揺した感じで声が小さくなるおっさん。

野:いや大丈夫です・・・・。

松:テレビを見ている同世代のみなさんに、えーちょっと、エールを送って頂けますかね。お願いします。

野:はい。

松:元気よくお願いします。

野:はい・・(カメラを気にしながら大きい声で)がんばっていこーー・・・・・・。

松:今どういう思い込めて言いました?

野:・・あ・・え・うん、みんなに頑張って。って感じですね。

松:野見さん自身も頑張って。

野:(大きくうなづいて)はい。

ここでインタビュー画面から切り替わり、おっさんの顔と名前がプリントされたTシャツ姿の松本が映される。

松:野見隆明さんの子供の頃の夢はパイロットになることでした。それでは、通勤途中にその夢が一瞬叶う様をみなさんに見ていただき、今日はお別れしましょう。

スタッフロールが流れると同時に、ある住宅の玄関が映し出され、そこからインタビューと同じ白いスーツ姿のおっさんが出てくる。そのまま道を歩きつづけ、コカコーラの自販機で立ち止まる。コインを入れ,ボタンを押そうとする瞬間、おっさんの姿がスーツ姿からパイロット姿に変わる。そしてボタンを押し、出てきたコーヒーを取り出した瞬間、またスーツ姿に戻る。コーヒーを振りながら仕事場へ向かうおっさんの後ろ姿が映る。

次回予告画面に切り替わり、インタビュー画面が映る。
右上には「働くおっさん人形 つづく」、下には「次週、野見さんついに恋に語る」のテロップ。

野:まー、自分では理想ではやっぱねえ・・・