《使用上のご注意》
ワケわかりません!凶暴です!
いや…何しろ逃亡中なんで・・・(爆)
この壁紙選ぶ辺りに、危機感を感じて下さい
気分悪なったらゴメンナサイ(先に謝っとこう・・・)




the veil of night


「アンダーソン君」

戦いはいつも、この呼び掛けから始まる。
もう、他の誰も呼びはしない名前を。
低い、絡み付くような声で・・・

ネオの周りを、ぐるりとスミスが囲んでいた。
ところどころ破れかけたフェンスがある広場。一角に錆びたバスケット・ゴールが置いてある。
自分自身を他人にコピーするという能力を得たスミスは、このマトリクス内の者を、全て己のコピーにしてしまうつもりなのか?と思えるほど、増殖していた。

皆、同じ姿。同じ顔。同じ声・・・
「いや・・・違う」
一人だ・・・と、ネオは呟く。
たとえ何千人、居たとしても・・・感じるのは・・・
「・・・・・・・・!」
蹴散らしても蹴散らしても、まるで傷のついたレコードのように、また同じように群がってくるスミスたちを、ネオは渾身の力を込めて弾き飛ばす。
バスケット・ゴールの向こうに、汚れたビルのありふれた鉄のドアがあった。
ネオは、そこを目掛けて走る。
そして、まだ体勢を立て直せずにいる一人のスミスの腕を掴んで、ドアの中へと引きずり込んだ。

ビルの内はその外観とは裏腹に、無機質なほど整然としていた。
長い廊下に、いくつものドアが続いている。
人の気配はまったく無かった。
「なんのつもりだ?」
何も言わず、ただ自分を凝視するだけのネオに、スミスが問う。
「こんな所で、いったい・・・」
「確かめたい事がある」
「何をだね?」
次第に間合いを詰めて来るネオには、いつもと違う雰囲気があった。
「どうして、わざわざこんな場所に?いったい何を確かめようというんだね」
「ここなら、誰にも見られる事は無いからだ。俺としても、こんな事には早くケリをつけてしまいたいんだ」
「ああ、そうか」
スミスは頷く。
「君たち人間は、残してきた本体と共に、常にモニターされているんだったな」
「サポートだ」
淡々と応えるネオに、厄介な事だ・・・と、スミスは薄く笑みを浮かべた。
「それで?確かにここはメイン・プログラムの裏側で、通常のサーチではモニターできない。何を仲間に秘密にしたいのかね?アンダーソン君」
「香り・・・だ」
「香り?何の?」
ネオは、スミスの問いには答えず、立ち並ぶドアを見て微笑んでいた。
「アンダーソン君?」
「ネクタイは、何のためにあるか知っているか?」
「何だって?」
ネオの突拍子もない言葉に、スミスの表情が険しくなる。
しかしネオは気にする風も無く、先を続けた。
「以前見た映画だったか、小説だったかにあったんだ。主人公の女が探偵だったかに言うんだ。『ネクタイって、何のためにあるか知ってる?』て・・・」
「なるほど。で?何のためにあるんだね」
呆れたようにスミスが問う。
「女は答える。『こうするために有るのよ』」
そう言うが早いか、ネオはスミスのネクタイのノットに指をかけて緩め、そのまま引き抜いた。
「何を・・・!」
予想外の行動に言葉を失ったスミスを横目で見ながら、ネオは手にしたネクタイに口付ける。
2度、3度と・・・
そして大きく息を吸い込んだ。
「違うか・・・」
ネオの呟きに、スミスは身構えた。
今日のネオの行動は、まったく理解不可能だった。
この状況に敢えて名をつけるなら・・・
「狂気・・・か?」
精神がバランスを欠いているような、そんな感じだ。
「狂気か・・・」
スミスの呟きを聞きとがめたのか、ネオが呟く。
「そうかも・・・しれないな」
一瞬、壮絶な笑みが唇をかすめた。
「アンダーソン君。救世主が重荷かね?」
スミスの言葉に、ネオの肩が小さく震えた。
それを見て、スミスはさらに言葉を続ける。
「だったら辞めてしまえばいい。私がその重責から、君を解放してあげよう」
そう言うが早いか、ネオの胸に右手を衝き入れた。
黒い影が触手のようにネオの身体を侵食してゆく。
突然ネオの手が素早く動き、手にしたままだったネクタイをスミスの右手首に巻きつけた。
「なにっ?」
そのままスミスの右手を引き抜き、近くのドアノブに縛りつける。
「!」
戒めを解こうとしたもう片方の手は、すぐにネオの手に阻まれ、逆に身体ごとドアに押さえつけられる格好となった。
無言のままネオの手がスミスのサングラスを奪い、投げ捨てる。
乾いた音が、長い廊下に響いた。
「ネクタイの無い胸元ってのは、案外間が抜けてるな」
睨みつけるスミスを無視するように、ネオが呟いた。
「アンダーソン君。君は」
「相変わらず、白くて堅いな・・・」
指がカラーの稜線をなぞる。
「ただの・・・プログラムなのに・・・」
「・・・・・・・・」
「実体など無いのに・・・」
震える指がカラーを閉ざすボタンを、ゆっくりと外してゆく。
「確かめたい事と言うのは、これなのかね?」
淡々とした声が問う。
「いいや。そうじゃない・・・香りだ」
「香り?」
「そう。ずっと付き纏って離れない、あんたの・・・」
そう囁きながら、唇を重ねた。


「香りとは、何の事だ?」
幾度目かのキスの後、やっと解放された唇から掠れた声が問う。
「そう・・・俺もそれが知りたいんだ」
互いの息がかかる距離で答えた唇が、再び重なってくる。
角度を変え、さらに深く、何度も、何度も・・・
予想外にリアルな感触を貪るようにキスを繰り返し、スーツを乱し、シャツの内へと手を這わせるネオに、スミスは抗いはしなかったが、応えもしない。
それに気付いて、目を開けたネオのサングラス越しに、スミスと目が合った。
深いアイス・ブルーの瞳が、見ていた。

ああ・・・そうか・・・

ネオは思う。
俺に纏わりついていた香りの正体は、これか・・・と。
晴れた空に、夜の帳が幾重ににも懸かってゆくような深い色の瞳。
俺は、これに魅入られてしまったのだ・・・と。
「スミス・・・」
唇をずらし、頬の輪郭をなぞるようにしてネオは囁く。
「目を閉じてくれ」
「何故?」
「それが、キスする時の礼儀だからさ」
「礼儀?」
ネオの言葉を、スミスは鼻で笑った。
「では君のこの行為は、礼儀に適っているとでも?」
依然、戒められたままの右手を目で示す。
「ああ・・・」
スミスの視線を追って身体を少し離すと、ネオは笑みとも吐息ともつかぬものを漏らした。
「あんたの手は・・・怖いからな。こうでもしておかないと、安心して話もできない」
「ふん・・・何を話すと言うんだね?」
「それは・・・」
ネオは数瞬言い澱んだ後、スミスの首に両腕を回し抱きつくと、その肩に顔を埋めた。
「あんたは先刻、俺を救世主の重責から解放してくれると言ったじゃないか」
「ああ・・・」
「解放・・・してくれ」
「つまりこれは、君の我儘というわけか」
スミスは呆れたように、大きな溜め息を吐いた。
「とんだ救世主様だな」

髪を梳く指に気付いて、ネオは顔を上げる。
思いがけず目の前の囚われ人は、柔らかい笑みを浮かべていた。
「スミス・・・?」
「救世主の我儘か・・・。それは高くつくぞ。アンダーソン君」
そう言って、ゆっくりと目を閉じた。
「・・・ああ。覚悟してる」
ネオは答え、そのまま、幾度目かのキス。
今度は確かな応えがあった。


結末はどうあれ、戦いはもうすぐ終わる。
そしてそれは、自分たち2人によってもたらされるのだと・・・

なぜかネオは、そんな予感がしていた。


-end-
<03,07,11>




『救世主の我儘』(爆)

なんやら、ワケわからん話や(おいっ!)
追い詰められるとイカンナ〜!なんか気分が凶暴で。
イラストもあるけど、UPしていいもんかどうか・・・(汗)
いやいや、解放されたいのはこっちだよ〜〜〜!

さぁ、原稿するか・・・(大爆)