-9999HITキリリクwithエル様-
= Long Way =

高く澄んだ蒼穹に、夜の帳が幾重にもかかり、その色に深みを増す。
やがて静々と、煌く星がその姿を現すだろう。

初めて星を見た者は、昏い虚空に光るそれを、どう思ったのか?
古い、いくつかの詩にその時の事が謳われてはいるが、それはあくまで詩でしかない。
本当の気持ちなんて、なかなか表せないものだと・・・

「ふ〜ん…どうも感傷的になってるな・・・」
いかんな・・・と、私は自分の額を軽くこつく。
何故かこの刻限になると、思い沈んでしまう事が多かった。
ここ裂け谷では、今日も平穏な一日が暮れようとしている。
たとえ世界がどうなっていようとも、ここはとにかく平穏だった。
それはすべて、主であるエルロンド卿の力によるもの。
あの方が張る結界に護られているからだ。

それ故、卿の心労は相当なもののはず。

私はため息を吐く。
ここに来て、もうどれ程になるか。
初めて相まみえた瞬間から、卿を護ると心に決めていた私。
それから幾星霜、いくつもの戦いを越えてきたが。
果たして私は、本当にあの方を護る事ができたのかと、近頃少々疑問に思う。
卿は強い。そして剛い。
そしてそれは、ご自分よりも他の者たちのために発揮されるのが常の事。
我が身を犠牲にする事も厭わない方だ。

もちろん、そんな方だからこそ。護る価値があるのだが。
しかし。

確かに<身体>は護る事ができた。
あのエレギオンからの敗走の時も。<最後の同盟>の戦いの時も。
傷一つ無くとはいかないまでも、深手を負うことなく終わっている。
でも<心>は?

救いに赴いた細工師たちを1人残らず殺され、あまつさえケレブリンボールの遺骸を幟のように掲げた軍勢に追われ続けた。
そして敬愛する上級王ギル=ガラドの<死>。
無論エルフの<死>は人のそれとは違い、マンドスの館での休息を意味する。
しかし、すぐ傍らに居ないという意味に於いては、同じ事だ。

剛いが故に脆い卿の<心>を、この私は、護る事ができているのだろうか・・・


「グロールフィンデル」
暮れ時の感傷的な思考は、私を呼ぶ声に霧散した。
「・・・ここに居ります。エルロンド卿」
応えた声に、エルロンド卿が私の居る高台の東屋へとやってきた。
「どうしたのだ?こんなところで?」
ふわり・・・と黒い髪が薄闇に溶けて、その輪郭だけが見える。
「ああ・・・空を見ておりました」
「ああ・・・」
卿も空を見上げる。
暮れなずむ空。星はまだ見えない。
「この空を・・・」
「はい?」
「何度・・・見上げたかな・・・」
懐かしそうな、それでいて寂しげな瞳。空と同じ色の。
深く、澄んだブルー。
「エルロンド卿」
腕を引いてベンチの隣に座らせる。
「ん?なんだ?」
「お疲れの様にみえましたので」
「・・・・・・」
返事は無い。
「あ・・・お気に触りましたか?」
「いや・・・」
卿はため息のような笑みをもらした。
「うむ・・・確かに疲れておるな・・・そのとおりだ、グロールフィンデル」
「はい」
「しばし休息を取ろうかと思う」
「ああでは、お部屋の方へ」
「いや、このままでいい」
卿の頭は、私の肩に預けられていた。


星の海に、月の船。
誰かが歌う声が、風に乗って幽かに聞こえる。
卿は頭だけでなく、今は全体重を私に預けていた。
私はそんな卿の身体に腕をまわし、抱くようにして、また空を見ていた。
「長かったな・・・」
ここまで・・・と、眠っているとばかり思っていた卿が呟いた。
「この先、どれ程の道程が、あるのだろうな・・・?」
その問いに、私は答えられないけれど。
でも・・・
「どれ程の道程であっても、私がお供いたします故」
そう。どこまでも。
貴方と共に。
「そうか・・・」
くぐもった、小さな呟き。
「貴公が一緒ならば心強い。頼むぞ、グロールフィンデル」
「慶んで」
言葉と共に、その身体を抱く手に力を込めた。

剛くて脆い我が君主を、いつまでも護るために_____



-end-



9999HITキリリクのグロエルSS。
如何だったでしょう?
リクエストしてくださったエル様。遅くなってスミマセン〜!!
いやもうとにかく
今、傍に居て、触れる事ができるというのが大事なんじゃないかと
最近、頓にそう思うのでありました〜(爆)

<03,10,02>