SONY ST-5000
トランジスタオーディオの黎明期に登場したFMチューナーの名機をヤフオクで入手しました。
有名なST-5000Fの原型というものですが、販売台数が少ないせいかWebではあまり記事を見
ません。入手されて整備しようという人のために回路図なども順次公開したいと思います。
下の写真は整備後のもので正面からの反射光は比較的きれいですが、角度によっては泡の
ような斑があります。
送られてきた本機は前面がたばこのやにで黄ばみ、内部は油汚れがありましたがほこりは比
較的少なく、油も無色透明で50年近く経ったものとしてはきれいな部類かもしれません。油は錆
止めのためCRCのようなものを吹きかけたのかもしれません。

上部カバーを取り除いた状態、2個のシールドケースがあります、中央がフロントエンド、横長の
シールドケースはIF部です。

シールドケースを外し後面から見たもの。

フロントエンドの拡大、通信型受信機も真っ青、コイルの巻き線は1.5o位はありそう。
5連バリコン使用、右からRF増幅2段、次の2つはMIX段の複同調、左端はOSC、Lの調整はフ
ェライトコアではなく、金属(真鍮か)が使われている。当時はVHFで使える良質なコアがなかった
のでTVチューナなどで普通に使われていた。フェライトやダストコアと異なり挿入するとLが下がる。
OSCコイルボビンが無いが、仕様なのか折れて取り除いたのか不明。これだけ巻線が太いとボビ
ンは有っても無くても関係ないと思う。

ダイヤルつまみのフライホイール、カセットデッキなど足元にも及ばない大きさと重量。SONYは
放送用テープレコーダのトップメーカでした。

IF増幅基板、10o角IFTを2個をC結合した複同調回路を1段とし、増幅5段、りミッタ増幅3段の8
段増幅とレシオ検波回路で構成される。

次はシャーシ下部、右側の基板がMPX基板。左の基板は安定化電源回路。

MPX基板、色とりどりの四角い部品はMPXコイル、2個の大きな黒くて四角い部品はステレオ復
調後のパイロット信号を取り除くためのLPF、5000Fでは1個にまとめられている。

アンテナ入力ATT、強力な電波による混信を軽減する目的と思われる。アンテナ入力直後に挿
入され、増幅段の信号強度が一定以上にならないように減衰させているらしい。内部はCdSと光
源で構成されており、IF段から負帰還をかけている。5000Fではアンバランス(75Ω)バランス(300
Ω)変換トランス以外は省略されている。

?ATTの内部、5個のCdSと小型ヒューズ型電球が見える(左)。右は基板の裏側、直列同調回路と
並列同調回路でT形バンドパスフィルタを形成している。入出力と各同調回路に並列にCdSが接
続されている。シミュレーションによると、各CdSの抵抗値が100Ωになると10dB程度RF回路の
入力が減衰する。

次の写真は洗浄のため分解したものです。ダイヤルスケールは樹脂製です、5000Fではガラスが使われています。

ダイヤルスケールはべーク製のスペーサで浮かせ、裏からナットで固定しています。量産品としては現在では考えられない組付け方法
です。

ダイヤルスケールを取り付けた状態、上記作業が9か所必要です。

ヤフオクの商品説明では、音は出るとありましたがAuto-Mono切替SWがAutoの場合出力が出ません。
原因はステレオーモノラルの切替を行っている部品、下の黒縁円形の部品3個のうち1個の不良。

この部品は何か?元々7ピン真空管ソケットに挿入して使うように設計されたもののようです。リードリレー
かと思ったのですが分解してびっくり。CdSとヒューズ型豆電球を組み合わせた2回路a接点のアナログスイッ
チでした。これを2個組み合わせて切替SWとしていたのですが、Stereo信号を接続する方の電球が切れたた
め信号が出力アンプに伝達されなかったようです。


小型ヒューズ型電球で、6V20mA程度のものが入手できれば交換できますが、まず手に入りません。5Vの
リードリレーが使えそうですが、本来の設計を生かすためLEDに交換しました。グリーンの高輝度LED2個と
抵抗を直列に接続したものに交換し10mA程度の電流で点灯するようにしました。グリーンにしたのはCdSの
感度の関係です。

基板に取り付け動作させた状態。

キャップを被せた状態。

MPX基板の裏側、パターンの修正個所が8ヶ所、スチコン2個の追加、基板発注後パターンと回設計ミス
発覚か?

MPX回路では8個のコイルと2個の半固定抵抗を調整する必要があります。不良部品は前項で修理した
のですが、いざ調整しようとするとコアが回りません。よく見るととボンドで固定されています、無理にまわそ
うとするとコアが割れそうなのでボンドを削り取る必要がありますが、部品が込み入ってるので工具が入り
ません。仕方ないので取り外してから削り取りました。
外形は普通のIFTと似ていますが、コアの形状は全く異なりポットコアが使われています。 ポットコアは
調整時上下のコアが接触しながら回る構造なので、この隙間にまでボンドが浸み込んでいると取るのが
難しくなります。私の場合、ボンドを完全に取り除けず、無理やりコアを回してしまって2個のコアを割って
しまいました。
下の写真左側がMPXに使われていたコイル、右側はAM用IFT、いずれも東光製10o角のコイルであるが
MPX用の方が巻線スペースが広くコアのギャップも狭くできるので、同インダクタンスであれば巻線を太く巻
き数も少なくでき、Qを高くできるので採用されたものと考えられる。
東光では右側のIFTとほぼ同じ構造の15o角MPXコイルも製造していた。

次の写真はコイルを再組付けしたMPX基板です。割れたコアの1個はT507のものを流用しました。T507
は67kHzのサブキャリアを取り除くトラップで、日本では現在使われてないので無くても影響ないはずです。
T508周辺の回路は今一理解できないのですが、なくてもステレオ分離の基本動作には影響ないと思われ
るので、T508のコアを割れた別のコイルのコアとして使い、AM用のIFTを巻き直したものをT508の代用とし
て使用しました。BLUESさんに見せていただいた資料によるとT508は19kHzのトラップとして使用されてい
るようで、コンデンサの値から計算するとインダクタンスは約1.4mHとなります。昔のトランジスタラジオから
取り外したAM用IFTのインダクタンスを測定すると700μH、コイルの巻き数は150回だったので、約1.4倍の
250回に巻き直し1.4mHとしました。ただし巻線がかなり細く(φ0.04o)なり、直流抵抗が元のコイルの15倍
程度になったので本来の効果は期待できないかも知れません。

MPX基板の裏側も下の写真のように、追加のコンデンサを表面に移動し、追加の配線もフッ素樹脂絶縁の
細いものに交換しました。

前面パネルの取り付け、取り付けは3本の埋込ボルトと上下のTスロットに、上2本下4本の六角頭のボル
トを差込み、シャーシ側の穴に合うようにボルト位置を調整して差込み、ナットで締め付けることによって固定
する。まるで工作機械?(フライス盤等に工作物を固定する際、このような機構が使われます)

Stereoインジケータが暗くてパネル面からは殆ど見えない。トランジスタでスイッチングしているのだが完全
にONできてない。E5位のランプで、回路から解析すると6V10mA程度のランプ使われていたと思われるが
交換されたランプの電流が大きすぎるようだ。トランジスタをHFEの大きなものと交換して3倍以上の電流を流
してみたが、それでもONできなかった。

電球のベースを使い、抵抗と赤色LEDを直列にしたものを取り付け電球の代用とした。

電流10mA程度ですが、明るすぎる位に点灯。

Stereoランプの点灯状態、メータ照明などに比べてStereo、電源ランプが明るすぎる。電源ランプも交換さ
れているようだ。ST-5000の電源ランプは赤色なんですね、緑になったのはF以降?(←失礼、ST-5000Fに
電源ランプはついていなかったですね、BLUESさんが入手されたものは緑色だそうで、途中でマイナーチェ
ンジがあったのかも知れません)

原型はあまり変えたくないのですが、75Ωアンテナ端子は不便なのでF型に交換。
銘板によると製造番号は5189、電源コードの年号から1967年製と思われる。大卒初任給の3倍ものFM専
用チューナが発売1年足らずで5千台も売れた?189番目の製品かもしれない。

回路図
ST-5000の全回路図、フロントエンドのTR名とMIX回路は更に分解しないと見えないので類似機種を参考
にして推測した。まだ不完全な部分もあるので、この図を利用することによって発生した如何なるトラブルに
関しても一切責任は持ちません。あくまでも自己責任で使用してください。
回路図をクリックすると拡大されます。
調整
ST-5000のIFは全てIFTで構成されています。従って経年変化で中間周波数(IF)がずれている可能性があ
ります。従ってまずIF周波数を調整するのが望ましいのですが、IFTは複同調回路となっており、その結合度
をトリマコンデンサ(TC)で調整する必要があり、通過帯域特性の調整には16ヶ所のコイルと8ヶ所のTC計24
ヶ所の調整が必要となります。これらは単に最高値に設定すれば良いというものではなく、通過帯域特性も
考慮して調整する必要があり、10.7MHzを中心として1MHz程度の帯域で通過特性が観測できるスイープジェ
ネレータとオシロスコープが必須となります。トラッキングジェネレータ付スペクトラムアナライザやゲインフェ
ーズアナライザでも可能です。これらの測定器が使えない場合は、IF回路には手を付けない方が良いでしょ
う。
IF回路の次はRF回路(フロントエンド)を調整し周波数とトラッキング調整を行います。最後にMPXを調整し
て終了です。
ST−5000はマイナス接地ですから、フロントエンドやIF回路の2SAタイプのトランジスタにとってはGNDが
Vccになるので注意が必要です。50Ω系の測定器でトランジスタのベースに信号を注入すると、直流カットコ
ンデンサが入ってないとVccとベースを50Ωでつなぐことになるので、大電流が流れてトランジスタが壊れる
可能性があります(実際にはエミッタ抵抗で電流が制限されるので壊れることはないと思いますが)。高周波用
発振機(SG)の出力は通常直流カットされていると思いますが、外部にATTをつけて信号強度を調整する場
合は注意が必要です。注入プローブの先端に1000pF程度のコンデンサを入れてから注入部に接続する方が
良いでしょう。
IF調整
まずフロントエンドのMIX回路のベースから中心周波数10.7MHz、スパン1MHz程度のスイープ信号を注入
し、フロントエンド出力を観測し、下の写真IFT0の文字の上下にある2つのコアを回して、出力信号の帯域幅
が最も広く、通過帯域がフラットになるように調節する。
次にIF基板のIFT1,IFT2…と順にIFT7まで同様に調節します。出力は調整するIFTの出口、図のRBの左側
から取ると良いでしょう。黄色のIFTで低域側、赤色の方で高域側を調整するとやりすいと思います。結合
度調整用のTCは基板裏側からしか回せないので、とりあえず調整しなくても良いでしょう。
IFT8は10.7MHzでOUT端子電圧が0V、スイープ信号を注入した状態で周波数に対して直線的に変化し、
その直線幅が10.7MHzを中心にできるだけ均等になるように調整する。
写真をクリックすると拡大されます
ダイアル目盛りとトラッキング調整
フロントエンドのL1〜L5、TC1〜TC5を調整します。L1〜L5は調整ネジがロックされているので、上側(調整
ネジに近い方)の六角ナットを半回転ほど緩めて調整ネジが回るようにしておきます。
まず指針と受信周波数が合うように調整します。
RF信号発生器(SSG)がある場合、ANTから76MHzの信号を入れ、指針を76MHzに合わせ、受信信号レ
ベルが最大になるようL1を調整する。次にSSGと指針を90MHzに合わせ、TC1を調整する。以上を数回繰り
返し、指針の誤差がなくなるまで調整する。
SSGがない場合は、ANTをつなぎ、受信できる最も低い周波数の放送局と、最も高い放送局を受信して、上
記と同様(指針は放送周波数に合わせること)に調整する。
トラッキング調整
トラッキング調整は、L2〜L5,TC2〜TC5を上記の目盛り調整の場合と同様に、下限の周波数ではLを、上
限の周波数ではTCを回して最高感度となるように調整します。L2〜L5,TC2〜TC5はそれぞれの周波数で、
同時に調整できます。(下限周波数に合わせ、L2〜L5を調整し、上限周波数に合わせてTC2〜TC5を調整す
る。これを数回繰り返す)

MPX調整
調整にはFMステレオ信号発振器(以下発振器)を使います。発振器は専用の測定器が使えればそれに
越したことはありませんが、中古でも結構高価ですので、私は秋月の「NS73M使用FMトランスミッターキット」
(次の写真)を使いました。このキットは全てデジタル処理で無調整で音声信号とパイロット信号の位相関係
もしっかりしているので、この手の調整には便利だと思います。1kHzのセパレーションが35dBと不足気味で
すが、一部のマニアが称賛するLPレコードのセパレーションは精々20dB程度ですから、これでも結構使え
ると思います。

発振器からオーディオ信号を入れない状態でステレオ信号(パイロット信号だけで変調した状態)を出力
し、チューナのダイアルを発振器の周波数に合わせます。その状態でMPX基板のTP6端子にオシロのプ
ローブを当て、T501〜T505のコアを回して38lHzが最大になるように調整します。MPX基板のコアはIFTと
違って半回転以内で最良点が見つかるはずです。それ以上回しても360度で元の状態に戻るだけですの
で何回も回す必要はありません。
次にオシロのプローブをTP7に移し、T506を調整して19kHzが最も小さくなるようにします。
T507は調整する必要はありませんが、67kHzのサブキャリアを付加できる発振器があればTP7で67kHz
が最も小さくなるように調整します。
次にチューナLR出力レベルを合わせます。発振器に適当なオーディオ信号(LまたはRかLR同じ信号)を
入れ、チューナのAuto-Mono切替SWをMonoにしてLR-FIX出力が同じになるようにVR537を調節します。
次にLRセパレーションを調節します。Auto-Mono切替SWをAutoに戻し、発振器のオーディオ信号をL側
だけ入れ、オーディオ出力端子のL側が最も大きく、R側のもれ信号が最も小さくなるようにT506のコアを
調整します。次にR信号で確認し、LRで漏れの大きさが違う場合は同等になるようにT505を微調整します。
T501〜5のどれを回してもこの状態は変わるので、これ以降は触れないこと。
BLUESさんの資料によるとT507は19kHzのトラップとなってますので、X514(トランジスタ)のコレクタに現
れる19kHz成分が最も少なくなるように調整しておきます。
以上で調整は終了です。較正された測定系ではないので正確な値は分かりませんが、1kHzのチャンネル
セパレーションは30dB以上、10kHzで20dB位はありそうです。
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