2002年2月

今年初の演奏会。

もう若くはないらしい。 2月は、先月から体調を壊していたため、思うように吹けない日が続きました。月の半ばに演奏会があるのですがその時までに少しでも良い状態で望みたいなーと思って薬やドリンク剤をがぼがぼ飲みまくりました。私は体調不良なんてものは一晩寝て、リポ○タンDでファイト一発!元通 り。という思想のもとで生活をしていて、いままでその考えに誤りはなかったものですから、今回も同じようにしていたのです、が、全然良くならず吐き気や頭痛は酷くなるばかり。演奏会のため練習を開始してみると非道いもので、仕事を開始してからの練習不足と体調の悪さで自分の耳にもあからさまに分かるくらい散々な音でした。演奏会の1週前には強化特訓の為、 病を押して東京へ行き(しかも往復夜行バス)私の大師匠Tさんに稽古をつけてもらいましたが、笛を吹くのがやっとで、音にもならず休憩ばかりで時間だけが過ぎてしまい、不完全燃焼のままあっさりと帰ってきてしまいました。こんな状態ではとてもじゃないけど演奏会なんて出られない!と気持ちは焦る一方でした。

復活しました。 演奏会まで1週間を切ったある日、どーにも内臓がへこたれて気持ち悪い、ということで、病院で薬を処方して貰いました。頭痛などその他の症状は無くなったのですが、胃腸だけ常に熱があるみたいな感じで気持ち悪くて、おなかに力を入れると戻しそうな(お食事中でしたらすいません)感じがあったのです。ナウゼリンという錠剤なのですが、これを飲みだしたとたんに一気に直りました。ほんとにびっくりしました。演奏会前日に結婚式で奏楽があったのですが全然オッケーでした。私はうきうきとしてその後の演奏会リハーサルへ向かいました。

どーすりゃいいの。 会場へ到着して少し経ってから私の参加するリハーサルの番が来ました。そりゃあもう私はるんるんで舞台に上がり、適当に音出しをしてみました。すると、笛の音が広いホールの暗闇に吸収されてしまう感じで思うような音がでません。なんかガサガサした部分だけが目立って音色の部分が薄れているのです。大きな音を出そうとして息を沢山吹き込むとすぐに息が無くなってしまうし、すぐに音がひっくり返ってしまう。。。私はテープレコーダーを側に置いて吹いていたので、後で聴いてみると、息を絞り出すような吹き方で乱暴な自分の音が、突拍子もなく垂れ流されているだけ、という感じでした。どーすりゃいいの、と途方に暮れる春の午後でした。

チョコエッグの甘い罠。 迎えた本番当日、緊張というより不安ばかりがつのりました。重い足取りで会場を、通 り過ぎ、向かいのコンビニでおにぎりとリゲ○ンを買いました。不安のあまり朝ご飯を食べて来れなかったのです。しかし何も食べずに吹くのは考えものだったので、無理にでも何か流し込むことにしました。会場入りをして、とりあえず最後のリハーサルまでに最後のあがきで自己練習をしようと控室に向かいました。すると他の雅楽メンバーが草履でぺたぺたとやってきて「あ、遅かったじゃん。リハーサル終わっちゃったよ」と言ってからからと笑うのです。私はすぐさま、うっそだーと思い、「またぁ。なんて冗談にできないご冗談を」と、おばちゃんのように手で空を招きました。私の出番は曲順では真ん中の方だったはず。時間的には1曲目のリハが終わったくらいです。そんな私のへらへら具合を見た彼はにやりと笑み、左手でグーを作り親指を立て、彼の後ろに貼ってある紙を指しました。グッドラック、彼の手は無言でそう語っているかのようでした。私は導かれるまま、控室前の廊下に貼られた白いプリントを凝視しました。がびーん。なんと本番とリハーサルの曲順が違うー!私たちのリハーサルは朝一番でした。コンビニでチョコエッグを買うべきか否かなんて考えている場合では無かったようです。私は早速、会の責任者のMさんに詫びを入れ、舞台監督のKさんに泣きを入れてみました。するとなんとか時間があまりそうなのでリハーサルの最後にもう一度機会を作ってくれることになりました。

結論と致しましては。 私は控室の1室を陣取ってぴぃぴぅ吹きはじめました。しかし、結局狭い室内ではいまいちピンとこない。あまり体力を使ってしまっては本番前にへこたれてしまうので、私は静かに時を待っていました。(寝ていました) 昼も回ったころ、私の遅刻のせいで2度も当日にリハーサルが出来るラッキーなメンバー達と共に舞台にあがりました。結局私が出した答えとしては、大きな息はそんなすぐには出来ないのだから、今、出せる息で、切れないようにラクに吹いてしまおう。ということでした。頑張って大きな音が出せたって、苦しそうにしているのがばれてしまっては見た目にも見苦しい。それなら小さくてもいいから差し障りなくいこうじゃないか。というワケです。

笑わせてくれるじゃないか。 「では」と、笙が平調音取を吹き始めた、と思ったら様子がおかしいようで、聞き慣れた音と違うものが流れてきました。「しまった。間違えてしまった」いっけねぇ、とばかりに彼が笑うのを見ると私の緊張も次第にほぐれていきました。そうして気を張らずに出した私の笛の音は昨日よりも良くのびて、客席の闇の中をこだましました。 「あぁ、そうか」と思いました。大きな音を出そうとするんではなくて、変に力を入れずにラクに吹いた方が結果 的に良く響くんだなぁと、気がついたのです。気持ちもラクになりました。そしたら本番が来るのがとても楽しみになりました。

尋常でない緊張具合。 舞台では遂に演奏会が始まっているらしく、私は控室で、ぼんやりと演奏会の模様をモニタで見ながらお弁当を食べていました。 なんだか先ほどのリハーサルで自分の出番はすっかり終わった気になっていました。しかしだんだん曲順が進むにつれ、先ほどの緊張感が戻ってきました。うろうろしてみたりトイレで袴の結び加減を何度も直してみたり(上から狩衣を着てしまうので見えません)。ついにやることが尽きて丸椅子に腰掛けていると何やら和楽器で出演している女性が通 りかかって、「いつも思うのだけどあなたは全然緊張しないのね。うらやましいわぁ」とおっしゃる。私自身はとっても緊張しているのだけどはたからはそうは見えないようで。何をいってるんだい、と思います。私は本番直前までは死にそうなほど緊張するのです。そして本番になるとピーク時の3分の1くらい緊張しています。本番になると一種の開き直りというか、今私にはこれ以上何もできないっすよ、といわんばかりにヤケになっている自分もいるので、比較的落ち着いているようです。まぁ兎に角、本番直前というのは虫歯を我慢するくらい死にそうに引きずる緊張感があって、この日も舞台袖でぶるぶる震っていました。そしてあまりの緊張にたえられず、前の曲順の人が客席から喝采を浴びている頃、控室に飛んで帰り、恥ずかしながら譜本を持ってきてしまいました。私ったら本当に緊張していて、越殿楽が頭から消えてしまいそうだったのです。

和楽器の女性と。ちょっと三味線を持たせてもらいました。てへ。

未知との遭遇。 出番がやってきて、カっとライトが照らされると光に包まれて周りがよく見えなくなりました。UFOに連れ去られたかとおもいました。なんだかあたたかくて良い気持ちでした。自分が不安に思っていたことがどうでもよくなりました。舞台に置かれた譜本の存在も忘れました。手は少し震っていましたが本番がいちばんのびのびと吹く事ができました。 後で客席に居た人に訊くと「笛の音がよく聞こえていたよ」と言ってくれました。そして打ち上げで飲んだ生ビールの旨い事ったらありませんでした。やっぱりビールは生ですね。演奏会も生が一番ですよ。あれ。

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