小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2013/08/25

京都〜奈良〜飛鳥 2013年8月

  京都〜奈良 >奈良〜飛鳥へ

特に理由も無く、何となく奈良に行ってみたくなっただけでした。奈良盆地が夏暑いだろうことは知っていましたので、2日間で約85km程度、しかも山道ゼロという楽勝プラン。あちこち寄り道しながら旅を楽しむ予定でした。奈良に行くのは高校の修学旅行以来でして、約30年ぶり。さすがに当時の記憶もほとんど無いわけでして、新鮮な旅路になるかもしれないとちょっぴり期待していたのですが...

1日目 京都〜奈良

暑い。朝からすでに暑いです。どうやら今頃が最も暑い時期になるらしく、日中は連日の35℃超え、この日の名古屋は最高気温37℃という予報でした。

新幹線で京都駅に到着。八条口の人通りが少ないところで自転車を組み立てて出発です。
走り始めてすぐに自販機で飲料を購入。猛烈な暑さで気力が萎えてしまいそうです。
この日、京都の観測記録は最高気温39.0℃だったそうで...

八条通りを西に向かうと、小堂の前で30代とおぼしきポロシャツ姿の若い男性が熱心に読教していました。人目をはばからないその姿は、何かそうせざるを得ない、重い事情があることをうかがわせます。祈りは何も生産しないかもしれませんけれど、しかし、他人の祈りを妨げる権利は誰にもありません。

八条通りは高架をくぐり、桂小橋を過ぎて桂大橋へ到着しました。ここから京都八幡木津川自転車道を南下していきます。


桂大橋


サイクリングロード

何の風情もない、単調なサイクリングロードで、草が茂り、見通しもよくありませんが、賑やかな虫の音が盛夏を過ぎつつあることを告げていました。
炎天下とはいえ、走っている自転車が意外に多い。90%がファッションを決めたロードバイクで、あとはクロスバイク、まれにMTBとすれ違いました。なぜか若者よりもオッサンが多いです。これも意外ですが、女性が少なくない。こちらもお世辞にも端正とは言い難いオバハンが多いようですが...
殺風景だったサイクリングロードの沿道に野菜畑が見られるようになり、野鳥も見かけるようになってきました。暑さのせいか、大型のサギが川辺で羽を休めているのが見えます。

サイクリングロードを挟み、川と反対側の小径で、のんびりした風情には不似合いなサイン会が開催されていました。しばらく走ると、小さな寺の門の脇で、暑そうにしている中年の署員が網を張っているのが見えました。猛暑の中、おつかれさまです。こんな、人通りのない寂しい道で日中の暑さに耐えながらサイン会をやらなくとも、と思いましたが、もしかしたらここは事故多発地域なのかもしれず、必要だから開催されている可能性もありますね。

それまでいくぶん涼しい風を感じる瞬間もありましたが、正午が近づくにつれ、もはやそうしたことも無くなってまいりました。早くも少々バテつつあった私は、八幡市に入ると、駅前のカフェで昼食タイム。ここでたっぷりと涼んでいきます。時間があれば、長岡天満宮とか石清水八幡宮など観光したかったのですが、なにぶんこの暑さで動きがとれません。
駅前を出発した後も、吹かれる風がドライヤーの “HOT” モードだけになり、危険なほど体に熱が溜まっていくのがわかります。いくらも進まないうちに流れ橋で休憩。


流れ橋


けっこうコワイです

木陰にはロードバイク乗りも何人か休んでいました。私もしばらく休むことにしましたが、吹いてくる風が熱風。時間が経っても一向に汗が引かないばかりか、かえって大量に汗が流れるようになってしまいました。
しかたなく何個かめの塩飴を頬張りつつ先へ進むことに。このあたりから急に自転車の数が減っていき、京田辺市を走る頃にはほとんど見かけなくなってしまいました。自転車の数と反比例するかのように田畑が拡がるようになり、ウグイスの声も聞こえ、空にはトンビが旋回しているところもありました。時折ツクツクボウシの鳴き声も耳にします。


近鉄京都線


原付も自転車道を走ってます

喉に痛みを感じるようになってきました。それもそのはず、熱風を受け続けているのに、口を半開きにしたままでは喉に良くないはずがない。さらに悪いことにボトルの飲料が残り少なくなってきました。しかも飲めないほど暖まってしまっています。
日なたの気温は40℃を超えていると思われ、ボトルの飲料も1〜2時間も経てばその温度になってしまうようです。想像してみてください。戸外の直射日光下で、水分補給のために口に入れた水が、風呂の浴槽の湯だったとしたら。気持ち悪いだけでなく、冷やすべき体がさらに熱くなってしまうのです。体にいいわけがありません。
困った... サイクリングロード沿道には店の類はおろか自販機すらありません。大量の汗に不安になりながら、途中で道を間違えてしばらく進んだ先にやっと自販機を発見。たまらず2本分の飲料を飲み干しました。古都を結ぶ、のんびりサイクリングのはずが、喉の乾きに悩まされる苦行の道のようです。そうですよねえ、だからこんな時期にこんなところを自転車で走るようなサイクリストはいないのでしょう。

飲料を補給したとはいえ、夏の日差しは猛烈なまま、熱風も温度が変わらないまま。これ以上喉が痛まないよう口を閉じたままのろのろと走っていくと、唐突に京都八幡木津川自転車道終点の表示版が目に入りました。やったー、ではありません。木津IC方面を目指すはずが、どうやらまた道を間違えたようです。トボトボとサイクリングロードを引き返し、途中から木津川を逸れて南下、西木津の駅前を通って一軒の古民家カフェに緊急避難。もうどこか涼しいところで体の熱を冷まさないと危険な状態でした。


カフェへ避難


フルーツパフェに救われました

ここでアイスコーヒーだけでなく、フルーツパフェも注文。体が猛烈にビタミンを求めています。グレープフルーツやオレンジの酸味に、助かった感じがしました。

「自転車で旅するなんて、まるでBS(NHK)の火野正平みたいね」
そんな風に店の人たちとひとときの会話を楽しむ余裕も出てくるほど、少し回復しました。ありがとう。
近隣の名所をいくつか勧められましたが、この暑さで今日は無理です、すみません。

京奈和自動車道 木津ICの脇を抜け、進む道をまた見失いつつ、平城山駅の横を南へ、R24の下をくぐると奈良の自転車道案内の表示がありました。それまで走ってきた京都市内のサイクリングロードとは雰囲気が一変、道に人の息づかいが感じられる道です。途中のダートに戸惑いつつ、平城京跡に着くことができました。


奈良に入りました


平城京跡

平城京跡を南へ、次に東へ進み、混雑する奈良市街へ入りました。騒音と人混みと熱気で、頭がおかしくなりそうです。いや、既におかしくなっていますが...
せっかく来たのですもの、せめてどこか観光していこうと、混雑のピークが過ぎつつある興福寺へ。

私はそれほど歴史に興味もなく、仏像趣味も無いので、失礼ながらあまり感動しませんでしたが、宝物殿の中の仏像はそれぞれ迫力がありました。もちろん有名な阿修羅像も。
しかし私が驚いたのは千手観音菩薩像でした。仏像に真正面から向き合って見上げていると、脈拍が上がり、体が細かく震えてきます。それは慈愛のような温かさとは少々違い、むしろ仏像に込められている様々な “念” のようなものの大きさを感じました。

思い切り個人的な感触で恐縮ですが、京都や奈良にノスタルジーはなく、古き良き日本があるわけでもないと思います。ここにあるのは異質であり、異国でした。
天変地異や疾病、戦乱などの苦しみに満ちた現実を変えたい、変わりたいという思いが伝わってきます。庶民を置き去りにして。
永田町を中心とする国の機関が大衆庶民感覚から離れているように、靖国神社もピンとこないように、京都や奈良も特殊なのだと言い換えていいかもしれません。
だからこそ、いくつかの寺院が焼き討ちなどの酷い目に遭う一方で、手厚く保護される歴史を辿ってきたのでしょう。

この日は新薬師寺近くの和風な宿へ投宿。


この日の宿


お待ちかねの夕食

喉の痛みをビールでごまかし、鮎や冷たいそうめんに舌鼓を打ち、火照った体にエアコンを強めにかけて就寝。そりゃあ、風邪引きますよね。

                     (奈良〜飛鳥へつづく)