小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2013/08/25

奈良〜飛鳥 2013年8月

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2日目 奈良〜飛鳥

脚にややダメージがきているようでした。そりゃそうでしょう、猛烈な暑さの中を無理して走っているんですから、何もないわけがないですね。

9:00出発。奈良駅東の細い道を南下していくと、奈良らしくない、ごちゃごちゃとした猥雑な街並みが続きます。またしても現在位置がわからなくなり、とりあえず西へ進んで郡山城跡へ出ました。


郡山城跡


誰も走っていません...

ここで自転車道へ復帰したつもりでしたが、またしても道に迷い、ぐるぐると回ってからやっと復帰でき、慈光院脇から法隆寺へ向かうことにしました。

法隆寺に着くころには気温が高くなってきて、バテ始めていました。喉も痛かったし、鼻水も出ていたし、今思えば風邪だったのでしょう。
ひととおり内部を見学した後、再出発。どうせまたわからなくなるのだからと、自転車道には戻らず、そのまま法隆寺から南下し、御幸橋を渡るも、交通量の多さに走りにくくなり、また自転車道へ復帰。
しかし、この日もドライヤーの “HOT” モードのままの熱風にやられ、サイクリングロードを逸れて自販機を見つけて飲料を補給。
もういいだろう、そろそろどこかで昼食をとって涼しいところでしばらく休もう、そう思い、小さな喫茶店兼軽食屋へ入りました。


ここで昼食


何かのご縁だからといただいた絵はがき

ここのマスターとおかみさんが話好きで、あれこれたくさんのお話を聞かせてくれました。何でも名古屋のひつまぶしが大好きで、毎年夏に一度は熱田神宮まで行くそうです。この夏は夜、そこで一人、ひつまぶしを頬張る若い女性を見かけ、マスターが声をかけてみると、何と彼女は韓国から観光で日本にやってきて、ひつまぶしに興味があり、わざわざ名古屋まで一人で来たとのことでした。すごい行動力ですねえ。“食” は人々を引きつける。人も人を引きつける。メディアで報じられるネガティブな情報に惑わされるばかりじゃなく、こうして自ら行動し、自ら感じることが大事だと思った瞬間でした。
「ここはな、店の外に温度計があるんや。37℃とか38℃とかいうても、それは百葉箱の中の温度やさかい」そう言って出ていったマスター、外の眩しさは、少しも衰える気配を見せません。戻ってきたマスターがひとこと「42℃やで」
マスター、なんだか苦しくなってきちゃったよ。でもいつまでもこうしているわけにもいきません。楽しい時間を過ごすことができて、ありがとう。

自転車道の側にある背の高い草むらから、ひときわ背丈のある、小さなすすきの穂が数本のぞいていました。暑さに苦しむ人間たちを横目に、季節は先へと進んでいるのでしょう。

大和高田市に入ってしばらくすると大和高田バイパスに突き当たり、自転車道は―旦終了。バイパス沿いに東へ向かいます。が、バイパス沿いを走っても何も楽しくなくて、橿原市に入ってから自転車道をそれて橿原神宮方面へ向かいました。照りつける日差しは容赦なく、ぬるま湯と化したボトルの水を飲めずに自販機を見つけては、飲料を一気飲み。真夏のサイクリングは健康にいいことなどひとつも無い気がしてきました。
橿原神宮付近でも道がわからなくなり、神宮前の駅に出たところで踏切を探して渡るのも面倒で、駅の地下道を通り、東側に出て飛鳥へと向かいました。
これでも路線バスが通るらしい細い道を走り、明日香村に入ると、空気が違うのを感じました。

甘樫丘入口で日差しを避けて休んでいると、通りかかったクロスバイクが止まり、話しかけてきました。
「この自転車、ランドナーですか?」
そう質問してきたおじさんは、ランドナーに興味があり、北海道も自転車で走ってみたいとのこと。

私の自転車はランドナーではないがロードバイクでもないこと、ランドナーは比較的荷物が積めて長距離を走りやすいが、輪行は手間がかかり(フォーク抜き輪行)かさばって車内では置き場所に困ること、夏の北海道は場所によってアブが多くて、食われるととても痛いことなど、あれこれ私の知ってる範囲を話しましたが、おじさんは目を輝かせて聞いていました。
おそらく還暦は過ぎているでしょうが、毎日30km走るという、元気で好奇心旺盛なおじさんです。偏屈な私も、素直で好奇心旺盛でありたい、そう思わせる人の良さを感じました。すみません、暑さにバテていなければ、もっと丁寧にお話できたことでしょう。でも、またいつかお会いするときがあるかもしれません。そのときはじっくり話を聞かせてくださいね。

飛鳥川沿いの風景がたとえようもなくすばらしい。
ここだ。京都や奈良ではなく、この明日香村にこそ古き良き日本があるような気がしました。他所の、類型的な地方にありがちな、擦り切れたような疲弊感や、大資本が入っては引き上げていったような寂漠感が見られません。それは、隣接する市町と合併せず、村のまま歩み続ける明日香村の姿勢に重なるようでもありました。

明日香村役場近くのカフェでスムージーを飲んでいたら、強烈過ぎる冷房に寒気がしてくるようになりました。どうやら風邪の症状が本格化したようです。
お約束の石舞台古墳を見学した後に岡寺へ寄ってみました。激坂です。最後の100mほどは空に向かうと思わせるほどの猛坂で、バテていた私はたまらず自転車を降り、押して上りました。

岡寺の境内は広くはありませんが、なぜかすごく落ち着く場所でありました。参拝客が少ないせいだけではないでしょう。ここは明日香村の、祈りの場所のひとつ。そう言い切れる、京都や奈良の高名な寺院にはない、静かな空気に満ちていました。遠くでヒグラシが鳴いています。夏もピークを過ぎつつあるのかもしれません。

自転車を押して上った猛坂は、下りも猛坂。体調万全で、タイヤもブレーキもごついMTBならいざ知らず、荷物を積んで、バテバテで、頼りないカンチブレーキのツーリングバイクが乗って下りる坂ではありません。とぼとぼと歩いて坂を下り、この日の宿へ到着。


素朴な民宿


牛乳仕立ての飛鳥鍋

夕食は飛鳥鍋。真夏に鍋? しかも牛乳仕立て? という疑念を打ち消すほど、あっさりとしていておいしく、バテた体に沁みていきました。
以前は、さすがに真夏は鍋を控えていたということですが、数年前、一部のリピーターから「真夏もこの鍋を楽しみにしている」という強いリクエストがあり、真夏も鍋を供するようにした、とのことです。
豪華な料理ではありませんが、出汁よく野菜も豊富、鶏肉も健康的な風味で、疲れた体が回復していくようでした。


翌日はもう帰るだけです。橿原神宮前駅まで走ってから輪行し、近鉄急行で京都駅へ。そこから新幹線に乗って帰宅しました。
今回はラクチンプランのはずがバテました。真夏の京都・奈良があれほど暑いとは... しかも夏風邪を引くというおみやげつき。
さんざんでしたが、愛知県が涼しとすら感じるようになったのは良いことなのか、そうでもないのか... でも輪行すれば飛鳥も遠くないことがわかりましたし、次回は飛鳥から五條や吉野へ行ってみたくなりました。

ちなみに今回自転車を使わず、公共交通機関で奈良・飛鳥を観光した妻は、後日熱中症と診断され、しばらくつらい思いをすることに。真夏の古都は厳しかった...

                          (おしまい)