四万十川と仁淀川 2018年10月
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3日目 窪川→ 佐川→ 高知
明け方、鼻が冷たくて目が覚めました。この日の最低気温5.9℃。田舎のおばあちゃん家のような小さな旅館は、気密性も断熱性も昭和レトロなようで、暖房をつけないと冷えます。1泊2食¥6,000/人と格安ですし、そういうこともあります。
朝食は駅前の食堂でいただくシステムです。負担の少ない優しい味がありがたい。
朝定食
窪川駅には四国新幹線(?)
この日はJR予土線 佐川駅まで鉄路で移動します。輪行作業は25分ほど。面倒に感じるかもしれませんけれど、慣れてしまえば慣れてしまうもんです。1両編成ののどかなディーゼル車両に乗り込みました。
途中、遠足でしょうか幼稚園児らしきチビっ子たちとその先生方合わせて20人ほどが乗車、車内が賑やかに。でもどのチビっ子も素直で穏やか、先生の言うことをよく聞いています。大人たちが穏やかだからなのか高知の自然がそうさせるのか、私にとっては不思議でした。先生方のうちお一人のご子息が愛知県にいたことがあったそうで、私たちが愛知県から来たと言うと、懐かしいわあと仰いました。
佐川駅で列車を降り、チビっ子たちとお別れして自転車を組み立て走り始めました。佐川の街並み、小規模ながら風情があっていいところです。通り過ぎるのが残念ですけど、いつかゆっくり来てみたい。
国道33号は交通量が多い。小さな峠のトンネルでは、交通量が途切れるまでしばらく待ってから通行しました。真っ暗ではありませんが、片側1車線で自転車が走れる歩道はありませんから。
越智市街に着きました。和食ばかりだったので久しぶりにパンを食べようと考えていたコーヒースタンドは定休日。しかたなく旧道沿いの喫茶店で日替わり定食をいただきました。国道と違って旧道沿いには小さなお店が並び、ほっとします。
旧道沿いの喫茶店
日替わり定食
日替わり定食のメインはシシャモのごま揚げ。ほかに小鉢が3品。柑橘の酸味爽やかな酢の物をはじめ、どれもおいしく、優しい味付けは疲れている体に負担が少ない。高知に来てから食事が外れていたことがありません。どんどん高知県が好きになっていきます。お気に入りの宿やお店が増えていきます。困ったなあ、またすぐに日常を離れて訪れたくなってしまう。
越智市街を出て浅尾トンネルまでは上り。続いて下った後に林間の狭路区間に入りました。
浅尾トンネル
片岡沈下橋
仁淀川の色がこの日、きれいなエメラルドグリーン。場所にもよりますけど、この世のものとは思えないほど美しい。半ば幻想的な風景に酔いつつも、狭路すぎて止まって写真を撮るのが難しいことが悔やまれるのでした。
県道18号から国道194号に入ります。予報では快晴でしたが天気は曇り。風は不規則に時折強く吹きつけます。交通量も比較的多く、川の眺望もさほど良くありません。ところどころで本州ではそれほど見かけない、勢いのある細い葉が特徴的な農作物をところどころで見かけます。何だろうかと考えていてわかりました。ショウガです。高知県の特産品の一つがショウガ。10月はまだ時期ではないのでしょうが、いつか新鮮な高知のショウガを食べてみたい。
高知アイス売店で休憩
山間の風情たっぷり
昨日の疲れが残ってはいますが、道の駅 土佐和紙工芸村でひと息入れた頃からは、概ね緩い下りに加え、ここへきて北西の季節風が安定してきたのか追い風基調となり、快調に走ることができました。
道の駅 土佐和紙工芸村
伊野駅
順調に走って伊野駅に到着。もう市街地真っ只中となりまして、高知市へ向かって仁淀川から逸れます。
しばらくはとさでん路面電車の軌道と並走する形になるのですが、路面電車のすぐ側を走るのが楽しいというかちょっと危ないというか...
路面電車が近い
はりまや橋
他の地域では路面電車は道路の中央付近を通行し、人が近づくのは電停付近だけ。人との接触が無いよう極力配慮している印象があるのに、とさでん路面電車の軌道は柵もなく、触ろうと思えば触れる位置関係。
首都圏などの大都会だったら、私が居住している愛知県だったら、人が接触したらだれが責任をとるんだ、などと即刻柵を設置するに違いありません。でも、そうしないところに高知の良さがあるような気がします。
高知市に入り、国道33号を走っていくと交通量はさらに増えたにもかかわらず、自転車通行帯が整備されているわけでもないのに不思議と自転車で走りやすい。こんなに賑やかな大都市なのに、通行車両の運転が決して丁寧だというわけではないのにどうしてだろうと考えているうちにはりまや橋に到着、ひと息入れました。
それにしても自転車が多いです。そしてたまたまかもしれませんが、いわゆるママチャリが比較的少なく、女性もクロスバイクに乗っている人たちが多い。学生も。理由はわかりませんけれど、車やバス、路面電車にたくさんの自転車が往来する高知市中心部、なんだかとっても健全な気がしました。
高知駅に到着
駅前のビジネスホテル
この日は駅前のビジネスホテルに投宿。駅前なのに2人でツイン¥6,000というリーズナブルな価格。なのにフロントの方々はにこやかですし、設備も何一つ不満に感じることがなく、また利用したいと思いました。この日の走行距離は約48km。
夕食は繁華街へ。7年前に高知駅に来た時に入った居酒屋に、また行きたかったのです。場所がわからず、探して歩き回りました。当時の不正確なメモを頼りに、事前に場所を確認したつもりだったのですが、見事に外れでして、結局私の勘を頼りに疲れた足を引きずってフラフラと... あった! ありました! 今も変わらず営業されています。
7年ぶりに居酒屋を再訪
至高の料理です!!
店内は当時と変わらず、だけど店主は比較的若いお兄さんで数年前に先代のお母様から引き継がれたそうです。私たちが7年ぶりに訪れたことを話すと、たいそう喜んでくださいまして、楽しい夕食になりました。
酒は麦焼酎の中々(宮崎)、料理は地元食材のものばかりを。お通しの豆腐に7年前の記憶が蘇り、戻りガツオの塩たたきに直七をたっぷり絞れば究極の美味! 四方竹の煮物やサーテ、山芋のステーキに、絶品の清水サバまで。居合わせた地元客と、東京から来たという観光客とも話が弾み、焼酎をお代わりしつつ、体の疲労も手伝ってしこたま酔ったのでありました。困るじゃないですか、忘れられないお店が増えて。またすぐに高知へ来たくなってしまうじゃないですか!
格安ビジネスホテルでは朝食も格安でした。トーストセット¥200ながら、分厚いトーストとゆで卵にたっぷりのサラダ、味噌汁までセットされていて、しかもおいしい。スタッフの方々も笑顔が素敵です。
「また来てや! 待ちゆうぜよ!!」という言葉を見かけました。もちろんですよ、また来ますね。
充実した朝食
高知駅を後に
四万十川も仁淀川も素晴らしい。豊かな自然が残されているだけでなく、流域に暮らす人々の穏やかさにも癒されました。それだけではありません。高知市の人々も含め、穏やかなだけでなく、寛容な社会が形成されているように感じました。他人に寛容で親切なのに干渉しない。自由を好み、管理しない、されない。
柵が無い路面電車の軌道周辺にも、そうした気風が現れているような気がします。高知中心街を、男性たちを追い越す勢いで颯爽とクロスバイクを走らせる多くの女性たちにも。
日本ではないような空気、と表現されることもあるようですが、私は好きです。
些細なことを気に病んだり、先のことを憂慮したり。自分自身の小ささに呆れることばかりな私ですけれど、高知の人たちを思い出して少しでも大らかに、自由に生きていきたい。
でも日常に疲れたとき、息苦しさを感じたときはまた高知を訪れようと思います。
後日、所用があって地元の大きなショッピングモールに行きました。数年ぶり、いえ、5年以上経っているかもしれません。
世間から少々はみ出している私にとって、久しぶりに訪れた華やかなモールは、人工的な虚飾と喧噪ばかりな空間でした。着飾った人々は、浮ついた空気に満たされることはないように見えます。いったい何を盛り上げているのか、そして何を急いているのか。ひねくれた私は完全に異物でありました。静かで美しい四万十川流域とは対照的な世界です。ああ、できることなら高知県に戻りたい。
(おしまい)