小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2017/05/21

京都 洛北と洛南 2017年4-5月

  1日目 起の章と承の章 >1日目 転の章と結の章

「GWは京都に行くことに決めたから」
寺社巡りとかショッピングとか、ごくフツーの観光をするという妻。そりゃそうですよね、学生じゃあるまいし、泊まりがけの荷物を抱えて自転車で走るなんてかなりおかしい。しかし変態サイクリストのおかしい私は妻の許しを得て日中完全に別行動できることになり、泊まりがけの荷物を抱えて自転車を走らせたのでした。

1日目 起の章と承の章 自宅→堅田→北山

のんびりサイクリングのつもりだったのに、私が変態サイクリストなおかげでマニア向けコースを辿ってしまい、起承転結のある一日となってしまいました。長くなって申し訳ありませんけれど、ご興味のある方やお時間のある方はご覧くださいまし。

 起の章

最寄り駅で自転車を輪行袋に詰めて担ぐとズッシリした重みが肩に食い込みます。今回持ち出したのは重量車のARAYA Diagonale。一番の理由は京都市街の宿泊先に駐輪場が無さそうで最寄りの市営駐輪場に夜間自転車を置いておかねばならず、Diagonaleのほうが目立たず安心だったこと。他の理由として、賀茂川の川べりの道が自転車で走れるけれど未舗装らしく、Diagonaleなら比較的安心なこと。それから今回はユルく走るからということも理由の一つでした。
しかしカタログ値が13.4kg、さらにフロントキャリアにサドルバッグサポーター、革サドルやフレームバッグの中の携行工具などを合わせるとおそらく15kgを超えていることでしょう。さらにフロントバッグとサドルバッグを担ぎ、合計20kg前後か、ふだんは重量物を担ぐことのない私には堪え、名古屋駅で名鉄から新幹線に乗り換える移動区間に3度ほど止まって休む始末。こんなところで体力を消耗してしまうなんて、先が思いやられます。
新幹線車内でゆっくりすることもなく名古屋駅から30分少々で京都駅に到着。ここで妻と別れ、私はJR湖西線へ乗り換えます。途中また止まって休んだにしては乗り換え時間7分の快速電車に乗ることができ、しかも湖西線は比較的空いていたので助かりました。
20分ほどで琵琶湖畔の堅田駅に到着。のんびりサイクリングの始まりです。自転車を組み立てて走り出すと快晴の日差しが眩しい。晴天で良かった。そういえば1年前に琵琶湖畔を走ったときに1日目はひどい目に遭ったなどと回想しているうちに国道477号は徐々に山へ向けて上り勾配になってまいりました。
途中で国道を逸れ、公園を回り込んでいったところにあるカフェでランチを。営業していて助かりました。堅田駅周辺を除くと他にはほとんど店がありませんから。都会のリズムとは違う、静かでゆったりとした空気が流れている素敵なカフェ。和風な焼き魚ランチにも惹かれたのですが、そこそこ走ろうと思っていたのでガッツリいこうと、かつ煮ランチをチョイス。ごはんをおかわり、しっかり食べました。


静かなカフェ


かつ煮ランチ

人懐こい大将とあれこれ話をすることができ、しかも大将、私の居住地である愛知県岡崎市へ仕事で何十年も前に度々訪れたことがあるそうでして、今やすっかり寂れた商業施設や集客力抜群の郊外型ショッピングモールのことなどローカルな話まで。これも何かの小さな小さな縁なのかもしれません。おいしい料理と楽しいお話をありがとうございました。

腹いっぱい、元気になった私は国道477号をさらに山方面へ。だんだんと上り勾配がキツくなり、汗が出てきて暑い。ここのところあまり坂道を走っていませんし運動不足であります。でも過去を悔いてもしかたない。今はとにかく目の前の坂を上るしかありません。まだ先があるので体力を消耗しないよう、7割程度の力でゆっくりと。
ゆるゆる上っていくと国道367号:鯖街道に突き当たり、大原方面へと折れました。すぐに途中トンネルに突入。歩道は極狭で走れず、路肩が狭いのに暗いトンネルの中が上りという悪条件。横を通り過ぎる四輪車にビクビクするだけで体力を消耗していくことに加えてトンネルを抜けた先がさらに上り。風情の無い途中峠に到着すると、後は豪快に下っていくばかりでした。う〜ん、今一つつまらない...
行く手に分岐が見え、大原へは直進、右折すると百井という峠道のようです。手元の大雑把な地図で標高を確認すると730m。どうしよう...


途中トンネルへ


行く手に分岐

大原へ行こうと思うんですけど体力的に余裕があれば百井へ行ってみるのもどうかと思いまして、とランチをいただいたカフェで大将に話したら、「やめなはれ、道が険しいで。大原へ行きはったらよろしいですやん」と言われたことを思い出しました。だけどまだ体力は残ってる気がするし、1000m級の峠ではないことだし。山紫水明の都、京都を構成する要素の北山にも、この際行ってみたい。えーい、行ったれ。
後に恐怖の体験をすることになろうとは、この時点では知る由もありませんでした。

 承の章

事前に下調べもなく百井へと向かう国道477号を進み始めた私。すぐに上り基調になったものの、それほど大した勾配でもなく、道も広くて対向2車線ある割には交通量も少なく、しばらくは快適でありました。センターラインが無くなり、狭小区間に入るまでは。
なあんだ、あと数kmだし、重量級のARAYA Diagonaleでもけっこういけるのかもと少々慢心したのも束の間、狭小区間に入ると斜度が変わり10%級に。でも大丈夫、このためにローギア32Tを装備しているのですから。フロントインナー34Tと組み合わせ、スローながらも走っていけます。
が、様子がおかしい。ローギア全力でも立ち行かなくなってまいりました。心肺機能はギブアップしていないのに脚がつらい。やはり準備不足ですね。峠を甘く見たツケです。日ごろからトレーニングしておかなければならないのです。


しばらくは快調に登坂


尋常ではない勾配が続く

しかしおかしい。斜度15%はあるのではなかろうか。もはや私の脚は売り切れてしまい、店じまいしようとしています。こんなところで情けない。8年前の夏、長野県の大平峠に挑んだとき、半ば絶望的な心境に陥ったことを思い出しました。当時と同じように、先がまだ長いのにバテている私でした。いえ、今回はバテているというよりは脚が売り切れただけさ。ほら、こうして腰を浮かせてダンシングすれば、己の体重を利用して前へ進めるじゃないかと立ち漕ぎしていると...
ピシィッ! 「はうっ」やってまった。 つってしまいました。しかも先に右脚、その右脚をかばうように力をこめた瞬間に左脚も。「終わったな」そう自嘲するしかない私でした。
ここで諦めて戻るのも一つの選択肢。だけど、私にはまだ押して歩くという選択肢があります。トボトボと自転車を押し始めました。トレーニングに来たのではない。旅なのです。押して越える峠もあっていいではありませんか。峠を制覇とか敗北とか、そうした概念は旅人には無いはずです。でもヘンですよ。押すのもしんどい。ふくらはぎがツライのです。後でわかったのですが、斜度15%はザラで18%や20%の区間もあるのだとか。そりゃ押すのもツライですよね。

押しては乗り、乗っては押し、を繰り返していると、ついに峠に到達しました。できることなら乗って着きたかったのですがしかたありません。今度もし来ることがあれば、前もって鍛錬しておくことで、あるいは足をつかずに越えることができるのかもしれません。


峠に着きました


一服処

峠から下るとすぐに百井の集落でした。見間違いではありません。目の前の民家の先に看板が出されていて茶店のようです。消耗しきった私はたまらず軒先に転がり込むと、アイスコーヒーを所望したのでありました。原則日曜営業のみ、たまたま営業日に来ることができて運が良かった。ありがとうございます。
お店のおばちゃんに、自転車で走ってきてキツさのあまり幾度も押して上ったことを話すと、初回で足を着かずに走り通す人は滅多にいないと優しく応対してくれて、自転車はもちろん、トレイルランの人たちも少なくないと話してくださいます。それからこの古民家の歴史や維持について、地域の方々の暮らしぶりや過疎化のこと、廃村になった近くの村のこと、ご自身の体調面やご主人のことなど、なぜか私にとうとうと話してくださいました。誰にでもここまで話すわけではないでしょう。私がユルい雰囲気で話しやすかったのかもしれません。いずれにせよ、こうして幾ばくか心を開いて話してくださるのは本当にありがたいことです。
さっきの峠はピークではなく百井峠は先でまだしばらく上らねばならないとのこと。
「峠を越したら下りに気ぃつけなはれ」
出発する私を、お店の外にまで出てきて見送ってくれたおばちゃん。おおきに、ありがとう。また来ますね、と気軽に言えない己が不甲斐ないのでありました。