バイクライフこぼれ話4
その10:立ちゴケにもいろいろあるのです
最低気温予想-1℃と報じられた日曜の朝早く、目が覚めてしまいました。
朝早くといっても、平日なら起きて出勤前の支度をする時間なのですが、真冬の休日の朝なんて、あまりやることがないのです。
こんなときは、ひとっ走りだな。
何も真冬の、特に用事もないのに、しかも朝にわざわざバイクで出かけなくても。賢明な諸兄はそう思うでしょう。確かに暖かい部屋でぬくぬく朝のTV番組でも見ながらミカンでも食べていればいいのですが、そこは おバカな私。誰が何と言おうと乗るのです!
「寒いからな」
着れるだけ着込み、モコモコに着膨れした状態で、さらにモコモコな お安いウインターグローブをはめて愛車: ZZR250のエンジンを始動。
気温は2℃。氷点下でないのが幸いですが、なかなかアイドリングが安定しません。チョークを引いたまま走り出すと、刺すような寒さとはいえ、何とか震えずにすみそうです。
「よし」
おバカな私はそのまま お山方面へ。
行けるかと思ったのは間違いで、モコモコな衣服のせいでかえって疲れる上に、60km/hに達すると、もはや長時間はとても我慢できないほど寒い。それに路面も凍結してる。当たり前ですよね。
しょうがない、このまま帰ろうと思ったところ、なんだか気になる細いわき道を発見。先へ行くにつれて、どんどん道幅が狭くなりましたが、よせばいいのに、かえって変にテンションが上がって そのまま走っていく おバカな私。上り勾配がキツくなり、車一台がやっと通れるくらいの道幅までに狭まると、曲がりくねった道はひどく荒れてきたこともあって、2速では上らず、1速で上る羽目になりました。
これには おバカな私もさすがにテンションが下がり、「400cc以上だったら、こんな悪条件では引き返せないよね」と、切り替えしに苦労しつつUターン、来た道を戻るのでした。そもそも400cc以上だったら、こんな道には入りません。いえ、250ccでもオフ車でない限り入らないでしょう。
上りも大変だが下りも大変。荒れた路面の、狭い急坂を、変な汗をかきつつ、ようやく勾配が緩くなったところへ出ると、急に緊張感が抜けてひと息入れたくなりました。
バイクを左端に停め、スタンドをかけて、バイクの右側に降りて、さあひと休み。
と思ったところ、突然バイクが動き出すではありませんか! そう、ニュートラルにしたまま、ギアを入れるのを怠ったのです。急坂を下りた後だったので、たいした勾配には感じなかったせいかもしれません。ともかく...
グラッ、ツーー...
グワシャッ! ギギッ! メキャッ! ...
バイク乗りなら 間違っても聞きたくない いろんな音とともに愛車: ZZR250は左側へ倒れ、さらに左の、泥と落ち葉に埋もれた側溝の中へ、上下逆さになってひっくり返ってしまったのです!!
あり得ないですよね。見たくないですよね。
そこには無惨に下腹を晒した、これ以上ない悲しい姿の愛車。あああ、オレは何ということをしてしまったんだ...
茫然自失というか何というか、しばらく時間が過ぎました。いくら何でも一人で側溝からバイクを出すのは無理です。とはいえ、全く人影のない険道。しかも真冬の日曜朝。人ひとり、車一台通る気配がありません。
よく考えればJAFと赤男爵とか、何らかのサービスを呼べばよかったのでしょう。しかしこの状況で冷静に、というのはおバカな私には到底無理な注文でした。
一刻も早く愛車を救出しようと、私は自ら落ち葉と泥の側溝に入り、バイクを引き起こしにかかりました。
「うあっ、うーん」
幸いにも大量の落ち葉のせいか それほど側溝は深くなく、渾身の力で踏ん張ると、ひっくり返っていたバイクが、何とか真横を向いた状態まで持ち上げることができました。
※良い子の皆さんは決して真似しないでください。
もしかしたら これは何とかなっちゃうのかもしれません♪
「ぬあっ! ぬおおっ!!」
斜め45度までいったか... と思った次の瞬間、足下の落ち葉が滑り、私の足は泥の中に埋まっていきました。
ああ、バイクは再び私を支えにして真横を向き、もはやそこから私自身も うかつに動けなくなったのです。
...こうなったら、やれるところまでやってやる!
「ぬあああっ!」、ずるぅ〜
「くああっ!」、ずる〜
「おあああ!」、ずるずる〜
何度繰り返したことでしょう。もう体力の限界。
それでもバイクの前後輪をアスファルトの路面に載せ、私の右脚をバイクと路面の間に挟んだところにまで 事態は前進しました。しかし、踏ん張れるのが左足だけとなり、踏ん張っても踏ん張っても、私の左足が側溝の泥をかき回しているだけ、という空しい事態が続くのでした。
「ふぬぬっ!」、ずる〜
「どりゃあああ!」、ず〜っ
「ぬおりゃああ!」、ずずずず〜
「きぇーーっ! うがあぁーっ!」
何をどうやったのかわかりませんが、とうとう、とうとうバイクを自力で側溝から出して、起こすことができたのです!! おおおっ、やった! ついにやった!!
すぐさまギアをローへ... あれ? チェンジペダルが曲がっていて動かない。
しかたなく勾配の緩いところまで そのまま下っていき、極限まで上がった息を整えるとともに、さっそく損害状況をチェックすると...
クラッチレバーは無事で、曲がったチェンジペダルを車載工具で何とか曲げ直すと自走できそうです。カウル類は部分的に割れてしまったものの、ガマンすれば交換せずに使えるかもしれません。何とラッキーなのでしょう。
しかしボッコリ凹んだタンクだけは見ているだけで悲しい...
反省と補修:パテ埋めと塗装の日々がこれから続くことでしょう。
教訓:坂道ではギアを入れて駐車すべし。
その11:パウダースノーの思い出
かれこれ15年近く昔の話になります。
毎日 YAMAHA TDR125というバイクに乗って、会社へ通勤していた頃のこと。
2月の、ある寒い冬の日、天気予報では「晴れ時々曇り、のち、一時雪でしょう」と言っているにもかかわらず、「雪かあ。帰りは道が混雑するだろうな。なるべく早く帰ろっと。タイヤはオンロード用だけど、直立ポジションのTDRだから何とかなるか」と、すっかり「おサル」モードのまま、その日もTDR125で出勤しました。
雪は予想外に早く降り出し、19時過ぎには仕事を切り上げたのですが、既に路面には数cm積もっていました。
「カッパも持ってるし、TDRだから少々滑ってもOKさ」と、甘いことを考えながら、私は何のためらいもなくTDR125をスタートさせました。
走り出してみると、積もった雪がまだ完全に凍結していなくて、何とか走れます。
ところが!!
「イタッ! イタタタッ!!」
少し開けたヘルメットのシールドから、降りしきる雪が入ってきて、眼に当たるのです。この日は愛知県では珍しく、みぞれでもベタ雪でもなく、サラサラ雪、いわばパウダースノーでした。
空中でフワフワ漂うパウダースノーは、シールドの隙間から容赦なく侵入し、重力に縛られずに上方に舞い、眼を直撃するのです!
「イテテテ」
やむなくシールドを閉じると、すぐさまシールド内側が曇って前が見えなくなり、仕方なくシールドを開けると雪が目に入り、シールドを閉じる、そして開けるという出口の無い事態に陥りました。
しまいには少しでも眼に入る雪を避けるために、時速約10km/hで、後続車のクラクションを浴びつつ、2ストなのに思い切りトロトロ走る羽目になりました...
教訓:雪の日はバイクに乗らないこと。
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