反 論 書

                              1998年8月25日

 

愛知県人事委員会委員長 殿

 

 

                      申 立 人  左右田 三 男

 

                      同 代理人  松 本 篤 周

 

                             他  11 名

 

 

第1 はじめに

 平成10年不第3号事案(左右田三男事案)について,処分者からの答弁書に対する反

論を行う。

第2 本案前の答弁に対する反論

 1.処分者は,「答弁書」の第1の「本案前答弁」と第2の「本案前の答弁の理由」に

  おいて,「本件転任処分は,額田町という同一町内の小学校間での配置換えを命じた

  ものに過ぎず,かつこれにより,不服申立人の教員としての身分,俸給等に異動を生

  ぜしめるものでないことはもとより,客観的また実際的見地からみても申立人の勤務

  場所,勤務内容等においてなんらの不利益を伴うものではない」から「地方公務員法

  49条1項に規定する『不利益な処分』に該当しない」と主張する。

 2.しかし,地方公務員法上の「不利益な処分」とは,教員としての身分,俸給に異動

  を生じた場合に限らず,客観的また実際的見地からみて不利益を被る場合も含まれる

  ことは当然であり,「客観的また実際的見地からの不利益」には,単に勤務場所,勤

  務内容等における不利益にとどまらず,教育計画を中断されることにより,教育の自

  主性・専門性が侵害されることも含まれるというべきである。

   そして,本件転任処分は,下記に記す如く,勤務条件の変更・悪化をもたらしただ

  けでなく,転任によって申立人の教育計画が中断され,教育の自主性・専門性が侵害

  されたことは明らかであるから,地方公務員法49条1項の「不利益な処分」に該当す

  るというべきである。

  @ 勤務条件の変更・悪化について

    答弁書によれば,「本件転任処分は,額田町という同一町内の小学校間での配置

   換えを命じたものに過ぎず,(中略)なんら不利益を伴うものでない」と述べてい

   るが,現任校は,公共交通機関を使えば,とても片道1時間30分以内で通えると

   ころにはなく,明らかに1998年度教職員定期異動実施要領に違反した処分であ

   る。さらに,3q余,自家用車で約10分の通勤距離及び通勤時間の延長は,「そ

   の程度に過ぎず,到底不利益と言えるようなものでない」と述べているが,市街地

   の交通渋滞や山間部での狭い道路幅,大小の起伏,冬場の道路の凍結等をも考え併

   せてみれば,安直に「その程度」とは決して言うことはできない。それは,前任校

   は「へき地1級」であり,現任校は「へき地2級」であることからも明らかである。

    次に,休憩・休息もまともにとれない勤務についての問題点を4点にわたって記

   す。

    第1は勤務開始時刻が8時15分であること。愛知県教育例規集の学校職員の勤

   勤務時間等に関する規則第3条によれば,勤務開始時刻は8時30分である。これ

   は明らかに規則違反である。

    第2は午前中の休息時間がとれないこと。第2校時後に「かけ足がんばりタイム」

   があるので,その指導が延長したり事後指導に追われたりすると,その時間は保障

   されない。

    第3は給食後の休憩時間も全くとれないこと。35分の給食時間は短く,時間内

   内に食べることができない子どもたちもいるので,その指導にあたるのが常である。

    第4は拘束時間が守られていないこと。毎週月曜日と木曜日は職員会や現職教育

   と称する会が拘束終了時刻(16時15分)を無視して続けられ,その後に設定さ

   れている休憩・休息時間が保障されていない。

    これらの実態を見れば,劣悪な勤務条件は言うまでもないことであり,前任校の

   勤務条件より著しく悪化するものであって,教師がゆとりをもって教育にあたる環

   境には,ほど遠いものである。

    以上から,転任処分により勤務条件が悪化したことは明白である。

  A 教員の教育の自主性・専門性の侵害について

    1995年4月,申立人は,児童数が500名を超える額田郡内では最も大きな

   規模の幸田町立幸田小学校から,児童数が14名という極小規模の額田町立鳥川小

   学校へ転勤した。それは,かねてより自らの教育実践の柱としてきた生活綴方教育

   を自然環境豊かな額田町の小規模校において実践したいという願いのもと,自ら進

   んでへき地校への転勤を志願して6年間もの長きにわたって異動希望を出し続けて

   きた末のことだった。

    赴任後,申立人は,日記・作文指導を積極的に進め,すべての子どもに生活に根

   ざした豊かな表現力と生きる力を保障するための実践に力を注いだ。そして,子ど

   もたちは,自分たちが書いた作品を互いに読み合い,話し合う中で,ものの見方や

   感じ方,考え方などを学んできたのである。「ふるさと鳥川を書く」の実践では,

   子どもたちは,鳥川の地場産業として50年近くの長い歴史を持つ椎茸栽培をとり

   上げた作品「しいたけ作り」を通し,原木栽培の方が本当の椎茸の味がするにもか

   かわらず,菌床栽培に移行してきているわけや「椎茸作りは,お年寄りの仕事」と

   言われる所以などを追究する過程で「ふるさと鳥川」を学習してきた。自らの生活

   と地域社会を見据えた確かな認識力に基づく豊かな表現力と生きる力は,着実に身

   につけつつあったのである。

    ちなみに鳥川小学校では,1997年度より西三河教育事務協議会による3年間

   の教育研究委嘱を受けており,申立人は,その研究をも視野に入れて実践したのは

   言うまでもないことである。

    ところが,今回の突然の処分により,申立人が過去3年間にわたって培ってきた

   実践は志を半ばにして中断せざるを得なくなってしまったのである。無念なことこ

   の上ない。これは,申立人の教育計画を損なうこと明白である。

    なお,処分者は,答弁書において申立人の鳥川小学校での過去3年間の教育実践

   を「不知」と回答された。ならば,毎年行われている西三河教育事務協議会による

   「学校訪問」(額田町の教育委員会も参加)は,いったい何の意味を持って行われ

   ているのか。申立人は,現行の「学校訪問」を認める立場ではないが,その実施要

   項には,「教育目標達成のための,教職員の創意工夫と具体的活動」や「活力ある

   充実した教育を進め,潤いや喜びのある学校生活の具現化の様子」,「精選された

   指導内容,吟味された素材,創意と工夫による授業実践の状況」などの着眼点が8

   項目にわたって書かれており,その着眼点に従って「学校訪問」がなされていれば,

   申立人の教育実践を「不知」と一蹴することはできないはずである。