五年 学芸会台本

 

 

   「日記を書いたお殿様」

 

              松平家忠物語

 

O 幕 前

 ・幕前で、家忠が語る場面 

  〈ウグイスの鳴き声〉

  (幕はしまっている。幕前に、日記を持って家忠が、出てくる。)

 

 家忠  (まわりを みながら)

     おお。うぐいすが鳴いている。これを、日記に書いておこう。ええと、今日は

     「天正8年の、3月28日。うぐいすが、はじめて鳴く。」と。

     さあ、書いたぞ。

     (ちがう方を見て、上をむき。)

     あ、雨がふってきた。これは、夕立だ。「夕立、ぱらぱらとする。」と。

 家来1 との、何をしているんです。

 家忠  何をしているだと。日記を書いているんだよ。お前も、書いてみるといい。

 家来2 いいえ。わたしは、けっこうでございます。

 家忠  なんだ、おもしろくないやつだな。

 家来3 との、日記の何がおもしろいのですか。

 家忠  何が、だって。こんなにおもしろいものが他にあるか。(本をひらいて)ええ

     とだな。そうだ、これだ。「8月13日に、海谷の川にアユつかみに入った」

     どうだ、いいだろう。

 家来1 はあ?

 家忠  何が、はあだ。ちゃんと記録にとっておくと、すぐにわかるではないか。

 家来2 はあ。

 家忠  おもしろいだろう。「風流の心」がわからぬか。

 家来たちはあ。

 家忠  ええい、もういい。わたしは、これからも毎日、日記を書くぞ。

    (家忠と家来たちが退場する。)

    (同時に、幕が開く。)

O 第1場面  「魚つかみ」

  (幕が開き、深溝の絵。木があり、田の場面、村人が何人かいる。)

 

 村人1  おお、寒い。

 村人2  さむーい。寒くて、たまらんぞ。

 村人3  寒いはずだぞ、今日は十二月七日だ。

 村人4  こんな日に、池に入って、魚をおい回すなんて。

 村人5  おお、いやだ、いやだ。

 村人6  あまりに寒くて、こおってしまう。(ポーズ)

 子ども  ほんとうだ。(おどろいて)こおっている。

 村人1  それにしても、お殿様も、すきだのう。

 村人2  本当に、すきだのう。

 村人3  ところで、あみのじゅんびは、できたのか。

 村人4  おお、できたとも。(あみを、二〜三人で広げる。)

 村人5  どうだ、りっぱなあみだろう。

 子ども  わあ、すごいあみだ。

     (村人、みんなで感心していると、家忠登場)

 

 家忠   よう、村のしゅう。集まっているな。

 村人たち  (みんな、家忠の方をみて。)ああ、殿様。みんな集まっていますだ。

 家忠   きょうは、いい天気だ。

 村人1  本当に。うれしいほど、いい天気です。(グシュン。)

 家忠   そうだ。今日は、魚がたくさんとれるぞ。ははは。

 村人2  はあ。かぜも、たくさんひきそうで。

 家忠   心配するな。くすりも、たくさん持ってきたぞ。

 村人たち はあ。(あきれたようす)

 村人3  それでは、みなのしゅう。やけくそで、はじめましょうか。

 村人4  おお、はじめよう。

 村人5  ひろがって。あみをひけー。(村人たち、ひろがる。)

 村人たち ヤッショ、まかしょ。やっしょ、まかしょ。

 家忠   それ、池の中に入って、おいたてるぞ。(池の中にはいる。)

 村人たち ひやぁ。殿様が、池の中へ。

 村人6  わしらも、入るか。

 村人1  しょうがないのう。

 村人たち それっ。(みんなで、はいる。)

 村人たち ひえーっ。しぬう。

 家忠   なにを、さわいどる。はやく、おえ。(見回して)おまえたちも、何をやっ

      とる。早く入らぬか。

 家来1  ええ、私たちもですか。

 家来2  ひゃあ、冷たい。(入る)

 村人2  ああ、神さま。ほとけさま。(やけくそで、魚をおう。)

 村人たち 「やっしょう。まかしょう。さむくて、たまらん。」(くりかえし)

     (魚をおう。ころんだりして、どろだらけ。)

 村人3  やったあ。つかまえたぞ。

 村人4  わしも、つかまえた。

 家忠   わしも、つかまえたぞ。

 村人たち つかまえた、つかまえた。ははははは。

 家忠   村のしゅう、今日は、たくさんつかまえだぞ。ええと、コイが、(かぞえる

      ようす)75ひき。フナが、50ひき。よし、日記に書いておこう。

 村人5  大漁だ。大漁だぞう。

 村人たち 大漁だ。大漁だ。

 家忠   村のしゅう、うれしそうだのう。それじゃあ。明日も、魚つかみをやろう。

 村人たち ええーっ。(おどろき、あきれる。)

     (暗くなる。静かに村人退場する。家忠にスポット)

 

 家忠   村人がよろこぶので、次の日も魚つかみをした。日記には、(日記を取り出

      して)「十二月八日 あみひかせそうろう。コイ65本、フナ35まい。」

      さあ、書いたぞ。

     (スポット 消える)

            暗転         (風雨の音、村人、家忠、静かに出る)

 

     (風雨の音、はげしく。)        

     (暗く、風雨の音)スポット、村人と家忠に。

 村人1  お殿様、雨と風がつよくなってきました。

 家忠   そうだのう。

 村人2  だいじょうぶでしょうか。

 家忠   わしは、田畑のことが心配で、見回りにきたのだが。今夜は、あぶないぞ。

 村人3  どうしたら、よいでしょう。

 家忠   村人を集めて、こわれそうなところをなおさせるのだ。

 村人4  はい、村のしゅうは、もう集まっています。

 家忠   そうか、それじゃあ。あぶない所に、土の入ったふくろをつみあげるのだ。

 村人5  はい。わかりました。

     (村人たち、いそがしく走り回る。)

 家来1  わたしたちも、手伝います。

 家忠   おお、そうしてくれ。

 村人6 (走ってくる)たいへんだ。たいへんだ。

 村人1  むこうの堤防が、くずれたぞ。

 村人2  この大雨で、堤防がくずれたぞ。

 家忠   おい。どこの堤防がくずれたのだ。

 村人6  はい。広田川の堤防でございます。

 家忠1  よし。では、すぐになおさなくては。わたしも、行こう。

 家来   え。これからですか。

 家忠   そうだ。ぐずぐずはできん。

 家来   はい。

 村人2  おい。いそげ、こっちに土をはこべ。

 村人3  よし、つぎはこっちだ。

 家忠   村のしゅう、ごくろう。わしも、手伝おう。

 村人4  ええ。いいんですか。

 家忠   かまわん。みんなで、田を守るのだ。

 村人5  はい。

     (みんな、いそがしく、動きまわる。)

     (カミナリの音、光てんめつ、音、はげしく)

     (そして、静かになる。しばらくして、明るくなる。)

 

 村人3  ああ、たいへんだったのう。

 村人1  たいへんな、夜だった。

 村人2  ていぼうがきれて、水が田に。

     (みんな、前を見て、おどろく。)

 村人3  大きな池だー。

 村人4  大きな池ができている。

 村人5  いつもは、歩くところが。

 子ども  海になっている。

 家忠   おやおや。これは、工事をしなくては。よし、見回ってこよう。

      村のしゅう。ふねを出してくれぬか。

 村人1  (おどろいて)舟ですか。

 村人2  舟なんか、あったかな。

 村人3  あるある。ひし池で、漁をする舟が。

 村人4  ああ、そうだ。それがいい。

 村人5  ただ今、よういします。それっ。

     (舟が出てくる。)

 家忠   よし、のりこもう。(みんな、のりこむ。)

     (舟が出ていくところで)

 家忠   よし、これを日記に書こう。

 家来   ええ、またですか。

 家忠   ええと「中島に、水見にこしそうろう。のばより、舟にて行きそうろう。 

      50年らいの大水にてそうろう。」ははは、書いたぞ。

     (舟にのって、家忠と家来、退場)

     (前幕、中幕しまる。)

 

     (家忠出てくる。スポット家忠に)

 家忠   私は、日記に雨の記録や地震の記録をできるだけくわしく書くようにした。

      それは、なぜだったのか。みなさんには、わかるかな。(うでを組んで)

      じつは、私にもわからない。雨の記録を書くようにしていたら、だんだん地

      震や、大風の記録も書くようにってしまったのだ。ああ、ここに、こんな

      記録がある。

      「天正一三年七月五日昼12時ころ大地震があった。夜までゆれていた。

       100年に一度の大地震だった。」

      この深溝は、わたしの生きたころ、よく地震があったのだ。みなさんの時代

      には、どうなのかな。(家忠、退場する。同時に、前幕開く)

 

O 第2場面  「山入会騒動」

     (スポット、村人にあたる。何人かいる。前幕前で演技)

 

 A村1  もう、がまんできん。

 A村2  この山は、もともとわしらの山だ。

 A村3  そうだ。わしらの山だ。

 A村4  どうだ、村のしゅう。こうなったら、山へ入ってしまおう。

 A村5  ええ、そんなことして、大じょうぶか。

 A村6  なに、かまうもんか。わしらの山だ。

 A村1  しかしなあ。おとの様に、めいわくが。

 A村2  だけど、せいかつが。

 A村3  ええい、決めた。おれは、入るぞ。

 A村4  しかたない。みなのしゅう、山へはいろう。

 A村   おおう。

     (みんな、かごを持って、山へ入る。草をかり、木を取る。)

 

     (反対がわから、他の村人が、どどっと入ってくる。)

 B村1  おい、おまえたち。

 B村2  なにをしている。

     (A村の人たち、立って集まる。)

 A村1  何をしてるって、みりゃあ、わかるだろ。

 A村2  山に入っているのさ。

 B村3  何いっ。ここは、わしらの山だぞ。

 B村4  お前たちの山じゃないぞ。

 B村5  とっとと、出ていけ。

 B村6  そうだ。そうだ。

 A村3  なんだとう。

 A村4  ここは、わしらの山だ。

 B村6  なにを言ってる。わしらの村の山だ。

 B村1  ふざけたことをいっとると、ただではすまさんぞ。

 A村5  ほう、ただではないと。じゃあ、いくらだ。

 B村2  なにい。けんかをうる気か。

 A村6  そっちこそ、けんかをうる気か。

     (にらみあう。おたがいに、くわやかまを持つ。)

 B村3  ちょっとまて。この山は、家康様の山だということを知っているか。

 A村1  なにい。この山は家忠様の山だ。 

 B村たち 家康様だ。

 A村たち 家忠様だ。

     (くりかえす。わけが、わからなくなる。)

     (そこへ、家忠が走って出てくる。家来もいっしょに。)

 家忠   まてっ。まてっ。

 A村   あっ、家忠様だ。

 B村   なに。

 家忠   村のしゅう。あらそいはよくない。どうしたのだ。

 A村2  お殿さま。いいところへきてくれました。

 A村3  この山へ、わたしたちが入って、仕事をしていましたら、

 A村4  この連中が、家康様の山だと、じゃまをしますんじゃあ。

 B村4  これは、家忠様。この山は、家康様のものです。すぐに、出ていくように、

      話してください。お願いします。

 A村   なにい。お前たちこそ、出ていけ。

 家忠   まてまて。待てと言っているのだ。この山は、家康様の山じゃ。お前たちが

      らんぼうをすると、わしが腹を切らねばならぬ。

      わかってくれ。静かに、山を出てくれ。

 A村   ええ、そんな。(みんなで、口々に)

 A村   わかりました。みなのしゅう、さあ、山を出るんだ。

 A村人々 はい。(出ていく。)

 

     (暗くなる。スポット、家忠に。)

 家忠   本当に、困ったことじゃ。家康様には、わたしから手紙を書こう。ああ、

      こんなことも、日記に書きたくなる。ええと「2月15日 ながらの者たち

      家康様の山へ入りそうろう。」と。家康の殿は、ゆるしてくれるかなあ。

      ああ、心配心配。(家忠退場)

     (スポット消えて、暗くなる。)(木の片付け)

 

O 第3場面  「家忠の館、そして本能寺の変」

     (明るくなる。家忠、かぞくがいる。)

     (子どもたちが、遊んでいる。)

 一平   家忠さま。もってきました。

 家忠   おう、一平、何を持ってきた。

 一平   やまももです。私の家でできました。おいしいですぞ。

 村人   わたしの畑では、ゆうがおができました。どうぞ、食べてください。

 村人   わたしは、ささげ(大角豆)を作りまし。おいしいですぞ。

 家忠   おお、それは。ありがとう。礼をいうぞ。

 一平   お殿さまに、食べていただけば、うれしいのです。どうぞ。

 子1   わあ、赤い味がいっぱいついている。

 子2   お父上、食べてもよろしいですか。

 家忠   おお、いいぞ。一平に、お礼をいってな。

 子1   ありがとう。

 子2   ありがとう。

     (食べる)

 子1   ああ、おいしい。

 子2   おいしい。もう一個。

 子1   わたしも、もう一個。

 母    まあ、おぎょうぎの悪い。しょうがないわねえ。もう一つだけよ。

 子たち  わ−い、やった。

 

     (村人、何人か出てくる)

 村人   ごめんください。

 家忠   おお、これは、逆川の。

 村人   お殿様、おいしいなすができました。どうぞ、食べてください。

 家忠   おお、これは。ありがとう。

 村人   まだまだ、たくさんもってきました。

 母    あら、こんなにたくさん。ありがとう。

     (やまももを見ながら)

 家忠   そうだ。これも日記に書いておこう。「一平が、やまももを持ってくる。」

      と。そうだそうだ。家康の殿に、くるみをもらったことがあった。これも、

      書いておこう。

 

 東堂   お殿さま。日記をお書きですか。

 家忠   おお。これは。東堂様。そうだ。先日、えげに行った時、ええと、あれは、

      朝六時でしたね。あの時、林で水鳥が音をたてていました。それも、「日記

      に書いておきましょう。

 東堂   ははは。お殿様は、日記が好きですね。

 家忠   これは、私のいきがいです。どうです。地震のことも、大雨のことも、それ

      から、台風も。それに、(日記を見せながら。)どろぼうが入ったことも書

      いてありますぞ。

 東堂   ほう。それはすごいですね。なんでも書いているんですね。

      わたしのことも。

 家忠   当然です。どうです。一つ「歌を歌っていただけませんか。」

 東堂   いいですよ。でも、みなさんに、わかりますか。「のう」が。

 家来たち おお、「のう」!!!(ポ−ズ)

 家忠   そうだ。「平家物語」をやってください。

 東堂   いいでしょう。では。みなさん、おしずかに。(みんな、すわる。)

      「ぎおんしょうじゃの かねのこえ 

          しょぎょう むじょうのひびきあり」(舞うように)

 家来1  なんだって。ぎおんがなんとか。

 家来2  しーっ。しずかに。きいているふりをするんだ。

 家忠   おお、一句、うかびましたぞ。

      「ぎおんしょうじゃのかねのこえ」

 みんな  (くりかえして)「ぎおんしょうじゃの かねのこえ」

 家忠   「かーん!ねがないと ひびいてる」

 みんな  さぶー。

 東堂   ううむ。これは、日記にはのせない方がいいですね。

     (暗くなる。)(家忠にスポット。頭をかきながら、ゆっくり歩く)

※ナレ−ション「家忠は、年末になると借金をしていました。「金がない」という歌は、

       作った話ですが、気持ちは、このようなものだったのでは。)

     (明るくなる)

 家来1  との、大変でござりまする。

 家忠   何事じゃ。

 家来2  京の方で、信長どのが殺されたということでござりまする。

 家忠   何、では、京におられる家康どのは。

 家来1  まだ、ようすがわからぬとのことです。

 家来2  との、どうされます。

 家忠   ううむ。ここにいても、何もわからぬ。

 家来1  すぐ、岡崎の城に出かけられますか。

 家忠   うむ。そうしょう。岡崎へ行くぞ。ぐそくを、もて。

 家来たち はっ。(音楽にあわせて出かけるよういをする。いそがしいようす。)

     (同時に、セットを片付ける。)

     ( 暗転 )

 ナレ−ション 「家忠は、その夜、いそいで岡崎城に出かけました。」

     (明るくなる)(岡崎城。家忠たち武将がいる。)

 家来1  との、家康様が無事だという連絡が入りました。

 武将たち おお、そうか。よかった。

 家忠   よかった。これで、松平家はだいじょうぶだ。

 武将   して、家康様の指示は。

 家来2  京へ向けて、軍を出せるようにしておけとのことでした。

 家忠   よし。わかった。

     (家康、とうじょう)(みんな、かけよる。)

 家忠   おお、家康さま。

 武将   ごぶじでござりましたか。

 家康   おお、家忠にみなのもの。

 家忠   たいじょうぶでこざりましたか。心配しましたぞ。

 家康   みんな、しんぱいかけたな。わしも、たいへんな目にあったが。みなの

      助けで、命びろいしたわい。

 家忠   これから、どうしますか。

 家康   信長様は、本能寺でなくなられた。明智光秀を討たねばならぬ。

 家忠   すぐにでも、京へ向かいまするか。

 家康   よく言ってくれた。その通りじゃ。すぐに軍勢を集めて、京へ向かおうぞ。

 武将たち  おおっ。(元気よく)

            幕しまる

     (幕前に、家忠とうじょう)スポット、家忠に。

 家忠  わたしたちは、京にむけて軍ぜいを進めた。しかし、京では明智光秀は、秀吉

     との戦いに負けて、討たれていた。このあと、わたしたちは、家康の殿にした

     がい小牧や犬山に出陣した。そして、戦った。日記には、

     「味方十人討たれそうろう。敵も四五人討ち捕り。敵の馬十五・十六ひきとり

      そうろう」と書いた。

     (家忠 たいじょう)(村人四人、とうじょう)

 

 村人1  家忠様は、本当に、この深溝が好きだったんだ。

 村人2  そうだ。何でも、日記の中には「うにや」とか「さかさがわ」。

 村人1  それに、「えげ」とか「ときちか」のことまで書かれていたという。

 村人2  「ふこうず」は、いくつも出てくるというぞ。 

 村人1  家忠さまが、家康さまについて、この深溝をさられた時、

 村人2  そうそう、こんなうたをのこされた。

      「うつしうえて  ひろごる  菊の井かきかな」

 村人1  そういえば、おやかたの庭に、きれいな菊の花をいっぱい植えておられたなあ。

 村人2  あれから、何年もたった。

 村人1  家忠さまは、京におられるそうじゃが。

 村人2  戦いが近いというが、大丈夫かのう。

     (村人 たいじょうして、幕が開く)

 

O 第4場面  「伏見城」

  (最後の戦いと死。短歌集を頼んだこと。祖父、父の思い出と自分の運命)

 

 家忠と他の武将

 武将1  おい。聞いたか。

   2  おお。聞いたぞ。

   3  大阪方が、この城に向かっているというぞ。

   4  家忠どの。敵が、この城に向かっているというのを聞かれたか。

 家忠   おお。聞きました。その数は、何人ほどですか。

 武将1  2万とも3万とも、いいます。

   2  いや、5万ともいうぞ。

   3  この城には、2千しかいないぞ。

   4  かくごを、決めた方がいいぞ。

 家忠   そのようですね。

 鳥居元忠 家康の殿は、この城を守るように言った。その時、わしは、ああ、この城で

      死んでくれということだな、と思った。

 武将1  どうせ、死ぬなら、思いきりあばれて。

   2  そうだ。三河武士の心いきを見せてやろう。

      (暗くなる。)

      (家忠ひとりにスポット)

 家忠   わたしは、46まで生きたのだから、くいはない。ただ、この日記と和歌の

      本。もえて灰になるのは、くやしい。

      そうだ。そうざえもんを呼んでくれ。

 家来   ははっ。

 そうざ  なんですか。おとのさま。

 家忠   じつは、たのみがある。この日記と本を、わたしの子どもにとどけてくれな

      いか。

 そうざ  はい。わかりました。

 家忠   大切なものなのだ。必ず、わたしてくれ。

 そうざ  はい。かならず。(出ていく)

 家忠   たのんだぞ。わたしの日記と歌集を。

     (独白)(暗くなる。スボット家忠に。)

      わたしの祖父も、父も、戦いにたおれた。そして、私もそうなるだろう。

      わたしは、それはかくごしている。

      しかし、わたしの生きたというあかしは、どこにあるのだろう。

     (しばらく、考えて)

      そうだ。わたしは、何十年も「日記」書いてきた。私が死んでも、あの「日

      記」は残る。……。 

 

      (暗転)

      (爆弾の音、たたかいの声、音)(少し明るくなる。)

 兵 1  敵が門にせまりました。なにやら言っています。

      (敵が多数出てくる)

 西軍1  お−い。東軍の方々、城をあけて、こうさんしなさい。

      こうさんしろ。(みんなで)

 西軍2  こっちは、10万。そっちに勝ち目はないぞ。

      そっちに勝ち目はないぞ。

 西軍3  こうさんしろ。

      こうさんしろ。

      (数人、出てきて。やりをかまえ。むかいあう。)

 兵 1  うるさい。

      うるさい。

 兵 2  こうさんなど、するものか。

      こうさんなど、するものか。

 家忠   (前に出て)わたしたちは、数ある武将の中で、家康どのにえらばれてこの

      城を守っている。敵がいくら多くても、こうさんなどするものか。

 兵    そうだ。こうさんなど、するものか。

 家忠   どうしても、というなら、力でやぶってみよ。

 兵    そうだ。そうだ。力で、ためしてみろ。

 

 西軍1  ようし。それなら力でやぶるまでだ。

 西軍   戦いだ。それいけ。

      それいけ。

      (両軍 おしあう。はげしい音。光。いりみだれる。)

      (暗く、赤く。人々のたおれたようす)

      (家忠 片腹をおさえて 出てくる。)

      (家忠にスポット)

 家忠   わしも、よく戦った。十日は、もちこたえただろうか。しかし、もはや、こ

      れまでだ。門はくずれ、城はやけている。(見回して)ここが、私の死に場

      所だ。(首を切って、たおれる。)

      (暗くなる)

      (幕がしまる。)

 

 

 ※ナレ−ション『家忠の日記』は、四百年をへて、今に伝わっています。

 

        この劇は、おもに『家忠日記』(『増補続史料大成』昭和56年)を参考にして作りました。

  この他にも『西尾市史』の「家忠日記」などを参考にし、地元に伝わる史料、そして、子どもら

の発想を大切にして構成しました。

 ※ この劇は、1999年11月21日初めて取り組んだものです。