侵略戦争と領土拡大を礼賛する「教科書」

 1904〜5年の日露戦争・日本海海戦を、

扶桑社の「教科書」は、どう描こうとしているか(2)

 

1、日本海海戦の真実はーロシア艦隊の水兵の目から

 日本海海戦を、この「教科書」は「世界の海戦史に残る驚異的な勝利」とただ賛美します。当時、この海戦にロシア水兵として参加したノビコフ・プリボイは、後日その著書『バルチック艦隊の壊滅』(原題『対馬』)の中で、ロシア艦隊の敗北の原因を次のように記しています。

「司令長官が誰にも信頼されず、士官の間に権威がない。わが艦隊の馬鹿げた配列(旧式艦と新式艦が同じ配列にいること=したがって、艦隊のスピードが日本艦隊の半分しか出ない)…、艦隊が運送船を連れている(艦隊が火につつまれる危険)。戦艦が石炭や兵備品を積み過ぎている(火災の原因)。そして、哨戒任務をせず、灯火をつけたまま航行した(つまり、日本艦隊を無視した)こと。…いろいろ愚かなことをやったが最後の愚策は朝鮮海峡通過だ。(司令長官は、5月14日に敵と遭遇して、戦闘は「皇帝陛下即位の日」に是非とも始めたかった。)」と。そして、ロシア水兵たちの「ペテルブルグの首脳部は、故意に俺たちを屠殺するために(東洋へ)追いやった」という悲鳴を載せています。

2,ロシア海軍敗北の原因は、ロシア社会の病根に根ざしていた

皇帝専制の封建的帝国主義、そのもとでの大帝国のおごり、クリミア戦争から何も学ばなかった支配層と民衆との軋轢、それは、このすぐ後に1905年の革命として勃発します。ロシア海軍「戦艦ポチョムキン号」の反乱は、軍隊が民衆の側につくという象徴的な事件となったのでした。つまり、「専制政治の病毒が深くくいこみ、封建制度で固まったロシアは戦場における試験に落第したのだ。…すでに崩壊に瀕し、すべての人に飽きられていた政府に勝ったにすぎない。」との言葉が示すような事態だったのです。

3、扶桑社のいう「自信の持てる歴史」とは、

侵略戦争を「壮大な国民戦争」と見ることにある

 日露戦争について、この「教科書」には「世界史に残る」「国家の存亡をかけた」「壮大な国民戦争」と、誇大妄想にも似た言葉が踊り、平和・真実とか、それに基づく正しい友好とかは全くの度外視されます。「戦争に勝利」したことを賛美し、日本の「誇るべき歴史」がここにあると。特に、日本海海戦は、「兵員の高い士気とたくみな戦術」によって「驚異的な勝利」を得たとする格好の材料になるのです。この「教科書」にとって、真実とは「自虐史観」であり、虚構や虚偽から成ってもここに「自信が持てる歴史がある」かのようです。これは、もうすでに「教科書」の範疇を越えて「煽動書」と名づけた方が良いほどのものです。