<2001年 豊坂小フェスティバル 5年生創作劇>(郷土の歴史より)

  野場城物語

 


ナレーター登場

    ( スポット ナレーターに)

 

 

 

物語のはじまり

今から400年前、野場の西に「野場城」という城がありました。そして、そこで戦いが始まろうとしていました。攻めるのは、深溝の松平伊忠(まつだいら これただ)です。守るのは、六栗の夏目吉信、乙部八兵衛らでした。原因は、岡崎にもどってきた松平元康(後の徳川家康)をはじめとする松平氏が、その支配を強めようとしていたことです。人々は、浄土真宗(じょうどしんしゅう)を深く信じて強く団結し、新しい主人になろうとしていた松平氏の支配(しはい)に反対していたのです。

 そして、とうとう野場城でたたかいがはじまるのです。

    

 (スポット消えて、暗くなる)

 

   (幕が開く)(中幕は閉まったまま)

 

 

1、六栗村

    幕があく(六栗の村のひとびと まるく車座になってすわっている。)

(みんな、しんこくなようす)

村人1  (ゆっくり立ち上がり)たいへんなことになった。

村人2  (続いて立ち上がり)まさか、こんなことになろうとはなあ。

村人3  なあに。岡崎の松平元康なんて、こわくはないぞ。

村人4  そうだ、そうだ。わしらには吉良様がついている。

村人5  それに、六栗の夏目様は、だれにもまけんわ。

村人1  それはそうだが、さむらいは、みんな松平様のご家来だろう。(武士を見る)

村人2  そうだ。真宗の教えより、殿様の言うことの方が大事なんじゃないのか。

夏目   いや。こんどは、真宗と殿様のけんか。わしは、真宗をとる。

大津   そうだ。家来の中にも、寺の味方をするという者が多い。

武士   そうよ。家来といったって、殿様につくばかりではないわ。

村人3  そうなら、安心なんだが。(村の人 うなずく)

名主   村の衆、(立ち上がって)心配は、次のことなんだ。わしらの味方は、幸田や土呂(とろ)、西尾や吉良など多くあるが、深溝の松平がこの六栗を攻めてくるというんだ。

村人4  それは、大変だ。六栗、桐山、野場、永井、野崎は力を合わせて戦わねば。

村人5  そうだ。でも、どこでくいとめるんだ。

武士   (刀を抜いて)野場の城がいい。あそこなら、そんなにかんたんには落ちはしない。

村人1  そうだ。深溝勢がぐずぐずしている間に、吉良様が助けに来てくださる。

夏目   村のしゅう、わしらの味方に、大津どの、乙部どのなどが来てくれるということだ。

名主   おお、それはありがたい。のう、みなのしゅう。

村人たち (みんなで)そうだ、そうだ。 

     (暗くなる。)

         

(スポット  ナレーターに)

    ○それから、しばらくして 深溝の松平は、70人から100人の人数で六栗から野場に攻めてきました。野場城にたてこもるのは、夏目、乙部、大津などの武士や百姓(ひゃくしょう)たち70名ほどでした。たたかいは、少しの人数が時々戦うという毎日で、どちらが勝つか わからないようすが続きました。

    (スポット消えて、暗くなる)

    

(中幕があく)(竹の柵を出す)(明るくなる)

2、野場城の戦い

    (明るくなる。深溝の松平勢と、野場・六栗勢がへいを間に向かいあっている。)

深溝勢1  やい。そんなところにかくれていないで、出て来い。

同  2  そうだ、そうだ。勇気があるなら、出てきて堂々と戦え。

同  全  そうだ、そうだ。弱虫ども。出てきて戦え。

六栗勢1  うるさい。よくなく犬どもだ。

六栗勢2  はやく深溝へ帰れ。お前たちのいるところは ここじゃないぞ。

六栗勢全  そうだ、そうだ。はやくお家へ帰れ。

深溝勢1  くそお。お前ら弱いから出てこれないんだろう。

深溝勢2  そうだ、そうだ。弱虫はへいのかげにかくれていろ。

六栗勢1  うるさい。今にみていろ。

夏目    (出てきて)おれが夏目吉信だ。おまえらを血祭りにあげてやる。

みんな、いくぞ!

六栗勢 全 おおーっ!

      (突然 門が開き、夏目が刀をひらめかせて 出る)

      (戦いの音。声。はげしくいりみだれる。)

深溝勢2   これは、かなわん。みんな、下がれ。下がれ。

      (深溝勢 にげる)(六栗勢 追いかける)

      (六栗勢 もどってきて)

六栗勢2  みろっ。深溝勢がにげていくぞ。

六栗勢全  勝った、勝った。

六栗勢3  どんなもんだ。やっぱり、夏目様は強いぞ。

六栗勢4  そうだ、そうだ。夏目様がおれば、負けないぞ。

六栗勢3  かちどきだ。エイエイ、オー!

六栗勢全  エイエイ、オー!エイエイ、オー!

      (他の武士たち  退場する。)

      (暗くなる)

      (中幕 しまる)

 

 

3、吉信と八兵衛

      (幕の前に、二人が家来とあらわれる)

夏目    どうだ、こんなもんだ。百姓しゅうと真宗の教えがあれば、負けはしない。

乙部                            そうだ、そうだ。だが、わたしは真宗を信じてここにいるわけではない。

夏目    うん。お前が真宗を信じていないことは知っている。それで、不思議に思って

      いたんだ。

      なぜ、お前はわたしたちの味方になったんだ。

乙部                            うん。いろいろあってな。

夏目    松平の殿が、きらいなのか。

乙部                            いや。そんな理由からではない。

夏目    じゃ、なぜなんだ。こちらが、勝つと思ってか。

乙部                            いや。この戦い、松平の殿が勝つかもしれないと思っている。

夏目    (みんな、驚く)なに、じゃあ、どうしてわれらの味方になったんだ。

乙部                            実はな。お前とならいっしょに戦えると思ったんだ。

夏目    おいおい、そんな理由で、負けるかも知れない方に味方しているのか。

乙部                            それに、百姓しゅうの中に知り合いも多いしなあ。

夏目    かわったやつだなあ。ははははは。

      (家来 前に出て)

家来    わたしも、夏目様といっしょに戦います.(やりをふるう)

家来    わたしは、野場の出だから、いっしょに戦います。(ポーズ)

夏目    おお、たのもしいのう。

乙部                            この城なら、負けることはない。

家来    そういえば、吉良様はいつ来るんだ.

家来    本当に、来るのか.

夏目    む・・・・。わからん。だが、心配はいらない。

乙部                            そうだ、心配は無用だ。

家来    お二人がそう言われるなら、だいじょうぶだなあ。

家来    そうだ、そうだ。はははっ。

      (夏目吉信、家来たち 退場する。乙部だけ、のこる)

      (暗くなる)

      (スポット  乙部にあてる)

乙部    わたしも、松平の殿のようなやりかたは、きらいだ。しかし、寺のいうこともよくわからん。吉信がここで戦うというから、ついてきたようなものだ。

      われながら、人がよすぎると思うなあ。(しばらく考え)

      だが、この野場城では、勝てないぞ。これから、どうするのだ。

      (腕をくんで、なやむようす)

      (暗くなる)

 

 ナレーション

      このまま戦いが長引けば、多くの人が傷つき死ぬだろう。そして、そうなれば夏目吉信も自分もどうなるか分からない。そして、たのみとしていた吉良勢の助けは来ない。

      ある夜、乙部八兵衛は、けつろんを出しました。それは、野場城に敵を入れることでした。合図は、ちょうちんの明かりをゆらすこと。この計画を松平勢に信じさせるために、子どもを人質(ひとじち)に出すことでした。失敗すれば、子どもも自分も命の保障はありません。

 

4、野場城落城

       (中幕があく)(暗い。深溝勢 配置につく)

(城の内側でちょうちんがゆれる。)

深溝勢1   おい。合図だ。

深溝勢2   よし。では、今から城にはいるぞ。

深溝勢3   城は、とりかこんでいる。中にはいったら、大声をあげろ。

深溝勢4   (出てきて)よし!お前たち、ついてこい。(刀を抜いて)進め!

       (深溝勢  静かに城の中に。しばらくして、)

声      わー!城の中に討ち入ったぞ。(マイクで)

声      わー!城は落ちるぞ。(マイクで)

深溝勢    (立ち上がり)よし。今だ、攻め込め!

深溝勢    わー!わー!(一気に城の中に入る)

(戦いの音)(太鼓の音)(両軍、いりみだれる)

(両軍、退場)(大津と家来、登場)

大津     (あわててやってくる)何だ。どうしたというんだ。

武士1    うらぎりだ。

武士2    なに!だれのうらぎりだ!

武士     わからん。でも、こうなってはもうだめだ。(くずれ落ちる)

大津     無念だ。こうなったら、針先へにげよう。

武士1    え!どうやって。

武士2    知らんのか。ここは、池で土呂とつながっている。

大津     そうだ。すぐに船を用意しよう。

武士1    よし、では、すぐに。

       (3人は、急いで退場)

       (入れ替わりに、兵たちらんにゅう。敵をさがす)

深溝勢6   おい、敵はどうした。

深溝勢7   何人かは、切ったぞ。

深溝勢8   つかまえたのもいるぞ。

深溝勢9   夏目は、どうした。

深溝勢10  よせやい。あいつとは、であいたくないな。

深溝勢6   何を言ってる。夏目を捕まえるか、殺さなくては意味がないぞ。

       (松平伊忠 登場する)

松平     ええい、何をやっている。夏目はいたのか。

深溝勢7   あ、これは殿。まだ、見つかっていません。

松平     何!まだ見つからんのか。(家来をける)

ええい。何をやっている。さがせ、さがせ。

深溝勢全   ははーっ!(みんな、さがしてたいじょう)

(松平一人のこる)

       (そこへ、家来とうじょう)

家来1    殿!

松平     おお。夏目はみつかったか。

家来1   はい。蔵の中に逃げ込んだようです。そこを、取り囲みました。

松平    そうか。よくやったぞ。あとは、うちとるだけだ。

      いいか、絶対に夏目吉信を討ち取るのだ。わかったな。

家来1   ははーっ!(伝えに退場する)

           (尹忠 追って退場)

      (中幕  しまる)

 

5、乙部八兵衛の願い

      (野場城の門、松平伊忠 立っている)

      (乙部八兵衛 登場)

乙部    伊忠どの

家来    何者!(前に出て、刀をぬく)

松平    おお、これは乙部どの。(近寄って)今度のこと、かたじけない。

      (八兵衛の手を取って)

      今度の勝利は、乙部どのの助けがあってこそでござる。お礼をもうす。

家来    ありがとうござる。

乙部                            それについて、一つお願いがあるのです。

松平    なんなりと言ってくだされ。

乙部                            実は、大将の夏目吉信を助けていただきたいのです。

松平    (驚いて)何!敵の大将を助けよと!

乙部                            そうです。ぜひ、吉信を助けていただきたい。

松平    それはできん。吉信は敵の大将だ。ここで助けるわけにはいかない。

家来    そうだ。せっかく夏目をつかまえたというのに。

乙部    今回のあなたの勝利は、私の助けがあってのもの。ぜひ、この願いを聞いていただきたいのです。(ひざまづき)これ、このとおり。

松平    しかしなあ。

乙部                            そもそも、私が今回あなたに力を貸したのは、吉信を助けたいがためです。

岡崎の元康様に、ぜひお願いをしていただきたい。

家来    との、どうしましょう。

家来    わたしは、助けるのは反対です。

家来    そうです。にくい敵の大将をみすみす助けなくても.

松平    ううむ。ともかく、岡崎の殿に連絡をとろう。

乙部    ありがとうござる。

      (二人ストップモーション)

     (暗くなる)

     ナレーター出る。(スポット ナレーターに)

 

ナレーション

    伊忠は、岡崎の元康に連絡を取りました。元康は、「夏目は、戦に強く、真面目な武将だから」と、伊忠に伝え、吉信は助けられることになりました。

    蔵の中には、乙部八兵衛が入り、吉信を説得しました。吉信は、涙ながらに元康の命令にしたがうことを約束したということです。

 

    (暗くなる)

    (野場城の看板 出る)

    (中幕があいて、明るくなる)

6、現代の野場城跡

    (豊坂の子たちの学習のようす)

    (豊坂の子たち  音楽にあわせて登場)

先生   (ふえを吹いて)ピーッ。全体、止まれ。

先生    えー、ここは昔、城があったところです。

子ども1  知っているよ。野場城というんだよ。

子ども2  うそだあ、ここはただの家しかないよ。

子ども3  ばかだなあ。400年の前の話だぞ。昔は、あったんだよ。

子ども4  でも、なんにも残っていないよ。

子ども5  ここに、何か書いてあるよ。

子ども6  あ、ほんとだ。でも、難しくて読めないよ。

先生    どれ、ほう。なるほど。(うなずく)

子ども1  ああ、先生だけずるいよ。なんて書いてあるの。

子ども2  そうだよ。教えてよ。

子ども全  教えてよ。

子ども   先生、本当にわかっているの。

子ども   先生だからわかるでしょう。

子ども   わかっているなら、教えてよ.

子どもたち そうだよ。教えてよ.

先生    ううむ。実は全然わかりましぇーん。

      (ポコン。という電子音)

子ども全  ええっ!(こける)

子ども全  なーんだ。先生もわからないのか。だめだなあ。

      (そこへ、地元の人登場)

老人    おお、これは学校のみなさん。何か、調べておいでかな。

先生    あ、これは良いところへ。ここに野場城があったということなんですが。

子ども3  おばあさん、教えてよ。

子ども4  先生もわからないんだって。

老人    それでは、話してあげよう。ほれ、ここが野場城の城壁(じょうへき)があったところでな。20年くらい前までは、道路も通ってなくて、よくわかったもんだが。

先生    ほー。なるほど。

子ども全  ほー。なるほど。

先生    これ、まねをするでない。

子ども5  これ、まねをするでない。

全     はははははは。

おばあさん ほれ、これがその時の骨じゃ。         。

みんな   ええーっ。(みんな おどろいて かけよる)

おばあさん うそぴょーん。(ポコ、ポコンという音)

      (音楽がかかる)

      (全員の踊り)モー娘「         」(元気に踊る)

      (突然  太鼓の音)(音楽 とまる)

      (暗くなる 不思議な音)

亡霊    うるさい!いいかげんにしろ!(こわい声)

      (亡霊が出てくる)よたよたと。(こわい音楽)

子ども先生たち きゃー!(逃げていく)

亡霊    くそー!せっかくいい気持ちでねていたのに。もっ静かにできんのか。

      (亡霊 よたよたと 出て行く)

      (静かになる)(暗くなる)

      ナレーター登場 (スポット ナレーターに)

 

ナレーション

     夏目吉信は、戦いに強くとても有名な武将として、静岡県の三方ヶ原の戦いで松平元康(この時は、もう徳川家康と名乗っていましたが)の身代わりとなって討ち死にしました。お墓は六栗の明善寺にあります。

     乙部八兵衛は、桐山に住み、松平伊忠(これただ)の家来となったということですが、その後のことはわかりません。

     でも、記録では、桐山に住み、明治までその家系は伝わっていたそうです。

     私たちは、「野場城の物語」を調べて、次のような感想を持ちました。

     

 

感  想

   私は、はじめ野場に城があったなんて全然知りませんでした。でも、そこに城があって、戦いがあったことを聞きました。夏目吉信という人は、自分の命をぎせいにして徳川家康を助けたことを知りました。乙部八兵衛は、その吉信を助けた人ですが、あまりよく知られていません。でも、友だちを救い、後はおだやかな一生を終えたように思います。男の子は、夏目吉信をすごいと言っていましたが、私は乙部八兵衛のような生き方もすばらしいなと思いました。

   自分のふるさとにこのような人たちが四00年も前に生きていたなんて、と思い、もっと調べてみたいと思うようになりました。

   赤川は、「昔、戦いで死んだ人の血が流れて赤くなったから赤川と名がついた」という説もあったそうですが、実は「川の鉄分で赤くみえる」という話も聞きました。でも、私は、この時の戦いで流れた人々の血が赤く染めたこともあったと思います。

  (ナレーター 退場)

  (幕が 閉まる)

  

 

 

   終わり

 

  (添付資料) 「野場城物語」(郷土の歴史より 出典『豊坂村誌』)

 

  ※ この劇は、2001年5年生の郷土学習の一環として取り組んだものです。