小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2011/09/11

野麦峠〜開田高原 2011年8月

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野麦峠〜開田高原

お助け小屋の食堂は、昼時をやや過ぎたせいか、ガラガラ。
野麦そばと、ヒエの入ったごはんを食べていたとき『あゝ野麦峠』でその名を知られた女工、政井みねのことが簡単に紹介されていた表示が目に入り、釘付けになってしまいました。下界にいて本やインターネットで目にするのとは違う。やはりこの場所でこうして当時のことを想像するだけでもズシンと重い感情でいっぱいになります。

峠の園地へ行くと、ハーレーの集団が乗り付けて公衆トイレの出入り口を塞ぎ、還暦前後であろうライダーたちが談笑していました。トイレに入るのも大変でしたが、トイレから出るのもひと苦労。なかなか出れずにいる私を、品の良さそうなハーレーご一行のご婦人が汚いものでも見るかのように一瞥し、通路を塞いだままだったので、「すみません」と言いながら、談笑している人たちの間をすり抜けなければなりませんでした。

さて、気を取り直して爽快な下りを楽しみましょう。


お楽しみの下りがスタート


木曽の山々が美しい

下るのは早い。またたく間に下っていくと、野麦の集落あたりから、上りになってしまいました。ははぁ、これが3番目の峠:寺坂峠ですね。軽い軽い、脚力も多少回復したし、たいしたことないはず、たいしたこと... しかし、上りが長く続きます。
途中休憩こそ要りませんでしたが、あとで調べたら標高差196m、最大斜度約5%。元気な状態ならともかく、疲れた体には堪えました。


寺坂峠


高峰大橋

何の風情もない峠を越え、高根乗鞍湖へ向けて下っていくと、高峰大橋が見えてきました。ここから国道361号に入り、開田高原へ向かうのです。
湖沿いの道には長いトンネルが複数あって、路肩が狭く、コワイ。私の自転車には尾灯がついているとはいえ、背後から追い越す車が、もしライトを点灯しなかったら、私の自転車を見落とすかもしれません。
トンネル内で車に抜かれないよう、スピードを上げて走りました。

トンネルをいくつか抜け、やがて上りに差しかかると脳内脚力警告灯が急激に点滅し始めました。もう貯金が無いみたいです。交通量もそれなりに多く、これまでと違ってやや娑婆の空気が強く、よけいに疲労が溜まります。
10分上って5分休憩、いえ、10分もたなくなってきました。5分上って5分休憩。脳内残量警告灯も点滅が消えました。もう私の脚は店じまいのようです。今日はあと一つ峠を越えねばならないのに。

日和田の入口で思い切って20分休憩しました。これで当分走れるだろう、そんな甘い考えも通用せず、再スタートから10分持たずに先へ進めなくなりました。自転車を押してもいいのですが、押して上るほどの勾配でもありません。いえ、押し歩く脚力も残っていなかったと言ったほうがいいでしょう。10歩も進めなかったですから...

そうだ、こんなときのために私には非常食があったのです。サドルバックからゼリーを取り出して飲み込みました。よし、これで20分は走れるはず ─しかし、ゼリーの効果は期待をはるかに下回り、5分で終了しました。
5分走っては、5分休む。今回最もつらかったのが、ここ長峰峠でした。
平均時速約3km。1km進むのに20分かかるのです。自転車を止めて左足をつくと、その左足が自転車と私自身を支えきれずに転げてしまいそう。やっとの思いで4つ目の長峰峠へたどり着きました。 あとで調べたら、標高差274m、最大斜度約6%。体力が尽きた体では、この程度の峠でも激しくキツかったです。


頼んだぞ、ゼリー


長峰峠

峠の茶屋で何か補給できるかと思っていましたが、建物の入口は閉ざされ、人の気配はありませんでした。
これだけ消耗していると、宿に着くのも遅くなりそうだったため、ひと言連絡を入れたかったのですが、電話を借りることもできず、手持ちのPHSは朝から圏外表示のまま。
しばらく休憩し、時刻は16:30。宿まではあと6〜7km。この脚では何時間かかるかわからないけれど、とにかく前へ進もう、それほどに消耗していました。
峠をスタート、ずっと下りなのが助かります。脚を冷やさないようにフロントギヤをアウターへ入れて、ときどき漕ぎつつ進んでいきました。

やはり下りは早かった。関谷、馬里を、それまでからは考えられないペースで通り越し、20分ほどで宿に到着しました。
でももうダメです。もはや1mの標高差を上ることもできないことでしょう。


開田高原へ


夕食とビールがサイコー

何も豪華な設備はありませんけれど、静かで素朴な宿でした。
馬刺など画像の料理のほかに、蕎麦と野菜の天ぷらなど、3人前近く出された夕食を、すべて平らげるほどの食欲に、自分でも驚きました。
宿のおばちゃんによると、お盆は車も多くて騒々しかったけれど、お盆が過ぎると急に醒めてしまったかのように、いつもの静けさが戻ってきたそうです。

ここはイラつく暑さとも無縁。気温は20℃に満たないかもしれません。外には闇が広がるばかりですが、静かで、のどかな時間が流れていきます。近年の高気密・高断熱の建物とはどうも違うらしく、虫たちが少々部屋の中に入ってきていました。しかしその虫たちはほとんどが害虫ではない上に、なぜか動きが穏やか。ゆっくり飛び交っていても、全然気にならないのです。かつての日本は、虫たちとある程度共存し、やたらと拒絶する必要はなかったのでしょう。そんな、心からゆったりできる夜でした。
                   (開田高原〜木曽福島へつづく)