小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2011/11/25

しまなみ海道〜四万十川〜高知 2011/10月

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今治街道(1日目)

さて、参加者と別れ、残った私。
これからどうしよう。やっぱり今治から輪行しようか。
だけど別れ際に主催者へ挨拶する際、私の口から出たのは、松山まで走っていく、途中で挫けたら輪行しますという言葉でした。
いいのです、最初の最寄り駅で輪行すれば。もう残された体力はほとんど無く、ここから今治駅までの5〜6kmですら限界かと思えるほどにへばっていたのでした。

サンライズ糸山から下っている間はよかったのですが、県道に入り本格的に松山を目指すと、疲労で脚が動かなくなってきました。私の体が走ることを拒否しているかのようです。
3週間前に転倒して痛めた左手親指の付け根が痛くなってきましたし。それにわずかに向かい風。きびしいなあ。
昨夜、自転車店でチオビタドリンクが配られたことを思い出し、フロントバックの中を探して一気に飲みました。これで、次の最寄り駅まではたどり着けそうだ。

やっとの思いでJR予讃線 波方駅に着きました。ここから輪行し、電車で松山駅へ行くのです。
すごく恵まれていることに、無人駅で待合室も何も無い、ホームだけの駅でした。自転車でホームの脇、いえ、自転車をホームに上げて、そこで輪行作業ができそうです。
時刻は14:30過ぎ。まだこんな時間か。こんな時間に、こんな条件が揃ったところで走りを中断するなんて、なんだか敗北したみたいです。それはそれでいいのでしょうけれど、しかしここで止めてしまうのも少しもったいない気がしないでもない。

よし、走ろう。
本当に疲れきってしまったとき、体が思うように動かないとき、余裕が無くなってしまったとき、ツーリストとしての資質が表に出てくる気がしました。何が良くて何が良くないということはありません。その人その人の個性なのです。私の個性って何だろう?
そしてこんなときこそ、疲れきった旅人を優しく支えてくれるのが真のツーリング車ではないかと思います。重量とか装備とか、決してスペックには表せないもの、それが何なのか、今は考える力もありませんが。

惰性でペダルを回していました。いや、もはや回しているのか、何となく回っているだけなのか、よくわからなくなっています。
国道沿いから時折見える海:斎灘が、わずかに私に力をくれる気がしました。

それでも走り続けるといっても、菊間駅が限界です。波方から15kmほどでしょうか。菊間中心部でコンビニを見つけ、倒れ込みました。
この後どうするのか、もう何も考えられません。とりあえずカレーパンと缶コーヒーを買い、胃に入れました。朝からコロッケだのソフトだの、カロリーメイトだの、次々に流し込まれ、その都度エネルギーへ変換するべく慌しく働いた私の胃腸。胃腸だってもう限界です。ふだんこんなことしないのに、突然フル稼働させられるのですから。
その上、左手も限界です。痛みが手首に広がり、痺れて感覚が無くなってきました。いつの間にか前傾姿勢の上半身を支える背筋が疲労し、手で上半身を支えていたみたいです。もういいだろう、これで十分すぎるさ。

ふと、コンビニの隣に目をやると、そこには雰囲気の良いお寺。遍照院という寺で、四国八十八ヶ所の霊場ではないようですが、小さくとも気品を感じるお寺でした。
お遍路の旅... 近年はバスや、車、バイクで巡るスタイルもあるようですが、依然として徒歩のスタイルもあるわけで、八十八ヶ所を巡るのは相当つらいだろう。心も体も完全に健康な人はともかく、そうでない人もきっと多く、そのつらさは私ごときに想像できるものではないのだろう。


松山まであと30km弱だろうか? う〜ん、キビシイけれど、次の道の駅までならあと6、7km。行ってみるか。
手を冷やさないように、冬用のグローブをはめ、よろよろと菊間を出発した私は、力なくペダルを漕ぎ進み、道の駅:風早の郷風和里へたどり着きました。

尽きたかと思った私の体力は、まだ尽きていなかったようです。というよりも、この伊予の国の何かが私に力を授けてくれているかのようです。それは不思議な感覚でした。

松山まであと20km程度だろうか? カロリーメイトを頬張ると、松山へ向けて走り出しました。まもなくバイパスに入り、道幅が広くなると同時に、走る車のスピードも上がりました。元気なときならまだしも、こんな疲れきった状態で路肩を走るのは危ない。幸い歩道もずいぶん広くなり、自転車も通行可能です。少々段差はあっても、歩道のほうがよほど安全です。


とうとう大谷トンネルを過ぎました。ここまで来ると、伊予松山に来た実感が湧いてきます。ひと息入れてから松山市街を目指して走っていくと、速度は出なくとも、上りもなぜかそれほど苦もなく淡々と走ることができるのでした。

市街に入るころには日没となり、じきに完全に暗くなりました。
そういえば、今朝も夜明けごろから走り始めたんだっけ。日が出てから沈むまで、一日中自転車に乗っているのは、バカみたいだけど、実は幸せなことなのかもしれない、そんなことを考えながら暗い市街地を走り、とうとう着きました! 松山駅に。

本当に走りきってしまいました。約125km! 本格的なサイクリストの方々にとっては、とるに足らない距離かもしれません。でも睡眠不足に加え、荷物満載という条件下で、5年前2日間に分けて走ったコースとほぼ同じ道を、1日で走りきったことに、自分でも驚いています。

自転車には乗らず、新幹線とJR特急を乗り継いできた妻とここで合流、くたびれ果てていた私は松山市駅や大街道へ繰り出す元気も無く、近くの喫茶店で夕食を済ませました。ハンバーグがおいしく、疲れきった胃腸にやさしくて正解でした。