小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2013/12/01

周防大島と松山 2013年10月

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3日目 周防大島 下田→ 伊保田→ 松山

夜明け前に起床。
今日は航路で島から愛媛へ渡る予定。朝日に向かってペダルを漕ぎ、島の東端、伊保田港へ向かいます。

島の、素朴な景色が美しい。市場経済とはまるで関係のない神々しさは、人間が定義する価値に置き換えることが愚かなことを示しています。
しかし観光客は下田、せいぜい平野止まりでその先へは行かないのでしょう。空気が少し違い、朝早いせいか、澄みわたっていました。コンビニの類は1軒もありませんけれど。
およそ45分で伊保田港へ到着。工事による交互通行区間を除き、下田から伊保田までの約15kmの間、信号は1つもありませんでした。


おにぎり


フェリー乗り場

今朝の出発時刻が宿の朝食の時間に合わず、持たせてもらったおにぎりを頬張ると、冷えた体が温まるようでした。

出航したフェリーの客室は静かで、ひっそりとしています。乗客はじっと外を眺めているか、あるいはゴロ寝をするか。海上で電波を受信できるのかどうかはわかりませんけれど、スマートフォンやケータイをいじっている人は皆無でした。売店は無く、広告の類も無く、刺激はありません。こうしたローカルなフェリーの旅、都会の人は時間を持て余して耐えられないことでしょう。

フェリーは1時間半ほどで三津浜港に着きました。せっかくなので三津浜の港町を少々散策してみます。
「♪伊予の松山名物名所 三津の朝市 道後の湯」と伊予節に歌われているように、昭和、いえ、それ以前にはたいそう賑わったことでしょう。車の乗り入れが難しいほど狭い道で構成された、今では寂しくなった街並みに、当時の面影が色濃く残っていました。

ここからすぐには松山に向かわずに、四国八十八箇所巡礼の第52番札所、太山寺へ行ってみました。


山門への石段


太山寺

自転車を駐車場に置き、そこからしばらく歩かねばなりませんが、しかしそれだけ清々しい場所でありました。
ここで、苫小枚から来たという歩き遍路のおじさんに声をかけられ、しばらくお話を聞きました。もう30日弱も歩き続けているそうです。
徒歩と聞くとゆったりとした旅を想像してしまいますが、実際はあまりゆっくりしていられないそうです。宿の予約を欠かさず、道順を確認し、夕食の前後に洗濯、それにマッサージが必須だそうで...
人生もそうしたものなのかもしれません。すべきことばかりで何かと忙しいといえばその通りでしょうし、シンプルに暮らそうとすればそうでもないのかもしれません。

第53番札所、円明寺がすぐ近くなので行ってみました。太山寺と違い、街中の平地にありますが、中に入ると落ち着いた雰囲気です。参拝客はほぼ例外なくお遍路さんの装いで、中でも年配の夫婦連れを多く見ました。熱心に読経する中年を過ぎた女性と、巡礼には興味がなさそうな息子らしい男性の二人組や、納札するだけで読経はしない若い夫婦も見かけました。旦那のほうは合掌すらしないようですけれど、こうしていろんな形の巡礼があることがわかります。


円明寺


お昼はここで

昼時になったので、松山中心部へ向かい、小さなカフェに入りました。昨夜も食べ過ぎたので、軽めに、和食セットのモーニングをいただきました。

第50番札所、繁多寺境内からの眺めが良いと聞き、繁多寺を目指して走り出して、松山大学を過ぎ、愛媛大学あたりから道を誤ったか、道後温泉駅に出てしまいました。賑やかではありますが、どうも猥雑で風情はありません。さっさと南下していきます。


道後温泉駅前


石手川

繁多寺へ行く前に、すぐ近くの第49番札所、浄土寺に寄りました。交通量の多い県道のそばにもかかわらず、境内は意外に静かです。
駐車場で、私の自転車の側に車を止めた年配のお遍路さんに話を聞くと、地元愛媛にお住まいで、仲の良い夫婦二組で巡礼しているそうです。
「定年後ヒマじゃけん、春と秋、季節のええときにこうして回るんよ。遊びじゃ」
私も遊びです。定年後も遊んでいられるかどうかわかりませんし、そもそも定年まで勤められるかわかりませんけれど...


浄土寺


遍路みちを通ってみる

次に訪れた第50番札所、繁多寺は少し上った高台にあり、松が植えられた広い境内が印象的でした。確かに眺めは良いのですが、広がる景色はビル群ばかりで、瀬戸内の自然と同調している私には、その輝かしい街並みが、失礼ながら醜悪なものにしか見えません。

さて、札所巡りはそろそろ終わりにして、少しは観光らしいこともしようと松山城へ向かいました。城の東側の駐輪場に自転車を置かせてもらい、リフトは使わずに歩いて上っていきました。私はお城に興味はありませんが、少なくとも市街のビル群に比べれば美しい。人間が造ったものであるのに、周囲との調和が見られるからでしょうか。

松山城は築城当時から、今もここ松山を護っているかのようでした。天守閣から見える光景は様変わりし、穢土はコンクリートで覆われ、ドライでバタ臭い街並みに変貌しようと。


松山城


観光地にしてはウマイ伊予柑ソフト

城から下りてきて、駐輪場の管理人のおじさんにお礼を述べると、どこから来たのか訊かれて話が始まりました。なんと娘さんが愛知県に暮らしてみえるとのことです。あれこれ話は弾み、愛知県は魚が不味くてここ松山は比べものにならないと私が言うと、おじさんは不思議そうでしたが、思い当たったように、娘さんが帰省する度にお造りを食べたいと要求し、お店へ連れて行くんだと、そこで納得されていました。
不思議ですね。大都市だっておいしいものが流通するはずなのに、私の経験上、都会に美味は無い。あ、失礼、松山はおいしいものが多い、珍しい都市だと思います。

この日は、2年前にも利用したビジネスホテルに投宿。
夕食にはフロントでおしえてもらった、おすすめの居酒屋へ行きました。
類型的な味を予想していましたが、良い意味で予想を裏切り、薄味でウマイ!
サラダの野菜も新鮮だし、湯豆腐の味付けもよろしい。おでんはしつこくなく、川蟹土鍋飯も豊かな香り。いいところをおしえてもらいました。
ここの若い女性スタッフと少しばかり話ができ、従兄弟が愛知県に住んでいるとのこと。でも松山と愛知県とはリズムが違うせいか、松山に帰ってくるとほっとするそうです。そりゃそうでしょう。
食後は近くの日帰り温泉施設で疲れた体を休めました。