連載『日中・太平洋戦争と教育』 第15回 第3部 平和のために 2007年5月
第3部 平和のために(1) イラク戦争と子どもたち 畦地学級の記録
三河教労の組合員である、畦地 治さんの学級の記録を紹介します。
2003年度、私は6年生の担任をしました。その1年はアメリカが始めたイラク戦争が泥沼化していった1年でもありました。年度初めに「今年は平和教育をやるぞ」と決意したわけではありませんが、情勢が情勢だけに戦争と平和の問題に無頓着ではいられませんでした。機会をとらえて「今考えよう、戦争と平和そしてわたしたちの未来」と訴えてきました。
はじまりは1分間スピーチから
朝の会で1分間スピーチをさせました。これは1年間続きました。その最初のスピーチから「イラク問題」でした。それだけ世界的な問題だったのでしょう。
4月15日、一人の女の子の「皆さん、今イラクで戦争をしていることを知っていますか?」という呼びかけで始まりました。続けて、「イラクの戦争のことについてお母さんに聞きました。お母さんも『戦争は本当にいけないことだ』と言っていました。再度自分の考えを述べます。わたしたちが大人になったら、戦争のない世の中にしたいと思います。」と述べました。
11月の学芸会では、原爆問題を劇と歌で表現した『ヒロシマから未来へ』を上演しました。わたしが資料を提示し、若い担任が脚本を書いて、学年全体で取り組みました。その日の日記にある男の子が、「今まで練習を積み上げた結果、歌もセリフも表現もみんな気合いが入っていました。特に『青い空は』の歌はうまくいったと思います。」と書いてくれました。
新聞の投書が児童の心を動かす
11月15日の朝日新聞の投書欄に「恋人に迫った(自衛隊)派遣をやめて」という、自衛隊員を恋人に持つ女性の投書が載りました。この投書は、わたしにも子どもたちにも大きなインパクトを与えました。
11月26日には、戦争体験者から話を聞くことができました。その方は「戦争に行く本人は涙を隠して出征するんですよ」と語られました。
12月に入り「平和カルタ」を作成しました。「核兵器そんなに持って平気なの?」(男子)「このカルタ 平和を築く第一歩」(女子)といった作品が生まれました。
そして、日本は自衛隊のイラク派兵を決めます。その時の小泉首相の記者会見をクラスの子どもが真剣に聞いて感想を日記に書いてきました。
12月9日、小泉首相が「自衛隊をイラクに派遣する」と主張した。テレビをつけたら、ちょうど小泉さんが話していたので、ずっと聞いていました。アメリカ人が死んでも良いわけではありませんが、アメリカとイラクの戦争に日本人が巻き込まれるのがすごくつらいと思います。私たちがこうして自衛隊をイラクに派遣しない方がよいと言っているのに、小泉さんは国民の意見も聞かずに前の総理大臣と話し合って、勝手に決めてしまいました。そんな小泉さんの主張に腹が立ちました。総理大臣として失格だと思います。これが今、私が思っている本当の気持ちです。本当に小泉さんは、期待はずれな人だと改めて思います。 (女子の日記より) |
なんと鋭い意見でしょう。小学生が記者会見を最後まで聞いていたことにも驚かされましたが、この内容にも驚かされました。正直言いますと、この少女は社会科を最も苦手にしている子でした。その子がここまでの文章を書いてきたのです。「小泉さんは期待はずれな人」とまで言っているのです。それだけではありません。彼女の日記を読んで、「わたしもあの記者会見を最後まで聞いていました」という子も現れたのです。
きみならば どう考える 人の未来
・Kさんの日記を聞いて (女子の日記より) |
クラスの友達の日記に対して「私もテレビを見ました」と言って日記に書いてくることに感動しました。子どもたちのこうした声に対して小泉首相は何と答えるのでしょうか。
次々に自らの思いを語り出した子どもたち
1月29日、朝日新聞の「天声人語」欄に「イラク問題」掲載されました。わたしは学級通信で知らせました。
1月30日「戦争になりそうで心配です」(男子)「やっぱり戦争に行くのと同じだから危険だと思います」「小泉さんは、自衛隊のイラク派遣を決めて命令したけれど、ぼくたちにとってイラク派遣は安全でないし、戦争になりそうでけっこうこわいです。なぜ小泉さんはこうしたのかなあ…?」(男子)
2月5日、日本国憲法前文の暗唱を提起しました。
2月9日、「今日は豊田市長選挙の日だったので、家族5人で選挙に歩いて出かけました。会場へ行ってみると中はガラーンとしていて、わたしたちの家族しかいませんでした。先生の言っていた、『3人に一人しか選挙に行かないだろう』という予想は本当だな、と思いました。投票して家に帰る途中でイラク派遣の話を思い出しました。私たちが最近習った憲法の三本柱が壊れそうな中、私は平和主義だけでなく、いつか基本的人権の尊重までも自分たちで壊していってしまうのではないかと思っています。私が 20才になったら、不在者投票へ行ってでも選挙には参加した方がいいな、と思っています。」(女子の日記より)
2月10日、「土曜日に友だちとお店へ行った時、『ぼくの見た戦争』という本がありました。少し読んで見ると、以前に先生が紹介してくれた時よりよく分かりました。何でかなあ?と考えながら読み終わりました。その時、近くで見た方がよくわかるんだと思いました。クラスのみんなにも近くで見せてあげて下さい。」(男子の日記より)
3月2日、ある子の日記に次のような一文がありました…「国民に誠意を持って聞いてみれば、進むべき道に光が差し込む」。私も平和運動に進んで参加します。同時に、この子どもたちが国の主権者として成長し、平和を守る力を発揮していってくれることを願っています。