連載『日中・太平洋戦争と教育』 第17回 第3章 平和のために 2007年8月
第3部 平和のために(3) 広島・長崎・終戦記念の夏に思う
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「ドラえもん」戦争特集 |
今年は猛暑です。まだ連載は終わっていませんが、夏こそ、この連載をしめくくる言葉を書くのにふさわしいと思い、最終稿を書きます。
「ちびまるこ」「ドラえもん」に戦争特集が登場
62年回目の終戦の夏。6日、広島の日。9日、長崎の日。そして16日の終戦記念日と、テレビで今年もあの戦争を振り返る番組が数多くありました。
ドラマでは、『ゾウのはな子』、『鬼太郎の見た玉砕』、『はだしのゲン』を見ました。どれも、あの戦争を見つめ、平和の尊さを訴える優れた作品でした。中でもびっくりしたのは、人気アニメの『ちびまるこちゃん』と『ドラえもん』に戦争特集の物語が登場したことです。わたしがこれまで見過ごしていたのかもしれませんが、(こんなことははじめてではないか!)とびっくりしました。女優吉永小百合さんの『原爆詩朗読』にも、しみじみと涙し、若い世代に受け継がれている様子を見て励まされました。
参議院選挙 危険な方向に、敏感に反応した国民
さて、組合の話し合いで、自民党が惨敗した参議院選挙をどう見るかが話題になったことがあります。ある組合員は「自民党の大敗は、年金問題や閣僚の事務所費などが原因であって、安倍首相が掲げた『憲法改正』や『戦後レジウムからの脱却』といった安倍内閣の政策が否定されたわけではない」と述べました。
確かに、安倍内閣が“不信任”されたといっても、自民党だけでなく民主党の議員までも含めた“靖国派”の考えが、国民の審判をきちんと受けたとは言えません。が、安倍内閣が総力で取り組んできた「憲法改正」「9条の廃棄」「軍隊の設置」「戦争ができる国」といった方向に対して、国民がかなりの不安を選挙で示したとわたしは見ています。
「教え子を二度と戦場に送らない」と語り継ぐこと
この夏は、戦争を見つめる優れたTV番組が多く放映されただけでなく、定時のニュースや新聞にも、戦争のむごさと愚かさを告発する地域の話題が登場し、「これからも末長く語り継がなければならない」という声をたくさん耳にすることができました。
本連載の第9回で、「軍国少年の伝言 騙されたら殺される」と題して書きましたが、わたしたち教員の先輩が残した伝言は、『教え子を二度と戦場に送らない』という言葉でした。これは、わたしたちが語り継がなければならない言葉だと思います。
靖国派の“俗論”を退ける
NHKスペシャル「パール判事は何を問いかけたのか」
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パール判事 |
この夏8月14日に、NHKスペシャル『パール判事は何を問いかけたのか 東京裁判 知られざる攻防』という番組が放映されました。心待ちしていた番組でした。というのは、靖国神社の『就遊館』を見学したときに、「(靖国神社に祭られている東条英機元首相などは戦争犯罪人といわれているが)東京裁判(極東国際軍事裁判)でインドのパール判事が“無罪”を主張したように、東京裁判は戦勝国のでっち上げだ」との説明の中で、パール判事の名が語られていたからです。
「日本軍の残虐行為の証拠は圧倒的である」
この番組を見て、パール判事は、確かに「全員無罪」の判決書を独自に書いたのですが、靖国神社が言うように、「日本はアジア各国の独立のために戦った」とか、「やむをえない自衛のための戦争だった」と考えたわけではないことを知りました。
「全員無罪」としたパール判事の「判決書」には、日本軍の侵略戦争の残虐な行為も書かれていました。例えば、靖国神社が「でっち上げ」と主張する『南京事件』については、「宣伝と誇張をできる限り斟酌しても、なお残虐行為は、日本軍がその占領したある地域の一般大衆はたまた戦時捕虜に対して犯したものであるという証拠は、圧倒的である」と書いています。
フィリピンの“バターン死の行進”については、「“バターン死の行進”は、実に極悪な残虐である。灼熱の太陽下、120キロbにわたる9日間の行軍の全期間中、約65000名の米国人およびフィリピン人捕虜は、その警備員によってけられ、殴打された。病気あるいは疲労のために行進から脱落したものは、射殺されあるいは銃剣で刺されたのであった」と書いています。
アジア太平洋地域での日本軍の行為についての記述では、「それらは、戦争の全期間を通じて、異なった地域において、日本軍により非戦闘員に対して行われた残虐行為の事例である。主張された残虐行為の鬼畜のような性格は、否定し得ない」と述べています。
“戦前の国際法”に照らし合わせて「無罪」を主張
パール判事は、日本の残虐な侵略戦争の行為を認めつつも、厳格な法の番人として「第2次世界大戦以前にあっては、国際法の発展の程度は、まだこれら(日本軍の侵略)の行為を犯罪もしくは違法とする程度には改まっていなかった」「あとから作った戦争犯罪の規定で裁くことは認められない」として「無罪」としたのでした。
真実を学び、騙されてはならない!
パール判事は、後輩のバタチャルジーカルカッタ高等裁判所元長官に、「自分の判決を根拠に、日本の侵略行為が支持されることがあってはならない」と語ったそうです。
またパール判事は、戦後3回訪日して各地で講演し、戦後日本が得た平和憲法の精神(第9条)が世界に広がってほしいと訴えたことも紹介されていました。
この番組を見て、「真実を学び、騙されてはならない!」と強く感じました。 完
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