連載 『日中・太平洋戦争と教育』 第8回の2 第1部 天皇の軍隊 2007年8月
3章 天皇の運隊 (2)『従軍慰安婦』問題
その2
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姜徳景さん「奪われた純潔」 |
わたしが、再び『従軍慰安婦』問題に注目するようになったのは、2005年1月に朝日新聞が取り上げた「NHK『女性国際戦犯法廷』番組改ざん事件」からだったと思います。中でも、政府の要職を担う政治家がNHKに圧力をかけたことが「事件」の発端だという報道に強い危惧を感じました。その人物とは、当時官房副長官だった安倍晋三氏と、安倍氏の“盟友”で現安倍政権体制の要職である政調会長を務める中川昭一氏でした。
安倍内閣による『日本軍の強制性』の否定
その安倍氏が首相になり、今年の3月ごろから、「旧日本軍の強制性を裏付ける証拠はない」といった発言を繰り返すようになりました。わたしが、『慰安婦』問題を本連載で取り上げる必要があると考えるようになったのは、そのころからです。
安倍内閣の姿勢は、国の内外から批判を浴び、6月末には、米下院の外交委員会で「『従軍慰安婦』問題で日本政府に公式な謝罪を求める決議案」が圧倒的多数で可決され、7月末には、米下院本会議でも採択されました。
『慰安婦』問題の削除を求めて「新しい教科書をつくる会」を結成
先回、阿部晃著『“慰安婦問題”のからくり』を紹介しましたが、“自虐教育”とか“反日的”という言い方で「戦後の教育」を否定して活動しているのが「新しい歴史教科書をつくる会」です。「つくる会」は、1997年の設立にさいして、「戦後の歴史教育は、日本人が受けつぐべき文化と伝統を忘れ、日本人の誇りを失わせるものでした。特に近現代史において、日本人は子々孫々まで謝罪し続けることを運命づけられた罪人のように扱われています」と述べ、「従軍慰安婦問題」、「南京虐殺」、ごく最近では沖縄の「住民集団自決」、これらは「でっち上げ」であり、「日本軍と何らかかわりがない」と主張し活動しています。
安倍首相―中川政調会長は、『従軍慰安婦』問題の“盟友”
「新しい歴史教科書をつくる会」が。結成されたその1ヵ月後に、「つくる会」を支援するために自民党内で結成されたのが、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」です。
その中心が、安倍-中川のコンビで、安倍氏が事務局長に、中川氏が代表になりました。この「若手議員の会」は、活発に活動し、99年には文部省の教科書課長などの幹部や教科書会社社長、教科書執筆者などを呼んで、侵略戦争や『慰安婦問題』などの教科書記述について激しい詰問・追及を行った。とか。さらに『慰安婦問題』で旧日本軍と日本政府の関与を認めた93年の河野官房長官(当時)談話に対して「確固たる証拠もなく『強制性』を先方に求められるままに認めた」と非難し、河野氏を会に呼びつけて撤回を迫ったといいます。
怖い言論統制! NHK『女性国際戦犯法廷』番組改ざん事件
「NHK番組改ざん」事件は、2001年1月に放映されたNHK ETVシリ−ズ2001「戦争をどう裁くか」の二夜、「問われる戦時性暴力」の番組が、放映直前に上部からの圧力で改変させられたとして、この番組制作に全面的に取材協力をしてきたVAWW-NETジャパンがNHKを訴えたものです。VAWW-NETジャパンによれば、
「女性国際戦犯法廷」は昨年12月8日から東京九段会館で開催されましたが、それを1カ月余り遡る10月24日、私たちは、(略)女性国際戦犯法廷を一月に放映予定しているETV2001シリ−ズで取り上げたいので、取材に協力してもらえないかと相談を受けました。
そこで番組提案票を見せられ説明された企画のねらいは、・番組では対談を盛り込み、戦時性暴力が現在まで抱えてきた問題を浮き彫りに(略)徹底考察するというものでした。
企画案とは似ても似つかぬ内容になっていました。「法廷」についての部分は異常に短く、「法廷」のフルネームも、「日本軍」や「性奴隷制」などのキーワードも、「法廷」会場内の光景も、主催団体も、主催者の発言も一切ないばかりか、「法廷」の「法廷」たるゆえんであり、シリーズ全体のテーマ「戦争をどう裁くか」の核心でもある判決についても、一言もふれなかったのです。そして、出演者たちの「法廷」を少しでも評価する発言は全部削られていました。被害者証言もあまりにも短く、加害兵士の証言は全面カットでした。その一方で、司会者が「法廷」についてわざわざ懐疑的なコメントをし、さらに、右翼学者に「法廷」批判と『慰安婦』についての暴言(売春婦だとか、証言に裏づけがないとか)を延々としゃべらせたのです。(以上はVAWW-NETジャパン「なぜNHKを提訴するのか」より)
東京高裁は“改変”を認め、NHK側が敗訴
東京高裁は2007年1月29日に「(安倍氏ら)相手方の発言を必要以上に重く受け止め、当たり障りのない番組にすることを考え、改変が行われた」との判断を示し、NHK側が敗訴した。政治家の圧力という点に関しては「政治家が一般論として述べた以上に本件番組に関して具体的な話や示唆をしたことまでは、認めるに足りる証拠はない」と判断された。この判決に関し、安倍氏は「政治家が介入していないことが、極めて明確になった」とコメント。一方NHKは「番組編集の自由を極度に制約するもの」とコメント、判決を不服として上告している。(フリー百科事典Wikipediaより)
『慰安婦』は、「知力が低くおだてにのりやすい」?
前に紹介した「はぜNHKを提訴するのか」の最後の方で上げられた「右翼学者」は、秦郁彦氏のことと思われます。秦氏の『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)は、「秦は、自らが国内外にわたって収集、調査した資料を駆使する歴史学的態度を堅持している・・・既存の類書の水準を超えた、『慰安婦』及び『慰安婦問題』の百科全書ともいうべき力作」との称賛の声もありますが、氏の姿勢に疑問を持った個所を一つ上げておきます。
それは、第6章「慰安婦たちの身の上話」の前置きの部分です。「『女郎の身の上話』という言い伝えがある」と書き始めて、「インドネシアを除くと、現在までに名のり出た慰安婦は三百人前後で、きわめて一部にすぎないが、次のように共通したパターンは見える。」とし、「1 慰安婦生活が平均より過酷だったらしい。2 戦後の生活に恵まれていない。3 名のりを嫌う家族を持っていない。4 知力が低く、おだてにのりやすい。ところが、一見してマイナスと思える条件は、逆に素朴な同情を呼びやすい面もある。」と書いています。氏はあとがきに「一切の情緒論や政策論を排した。個人的な感情や提言も加えなかった」と書いていますが、このような感覚は、偏見以外の何物でもないと思います。
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