小さい二輪車ライフ、小さい旅

最終更新日: 2025/08/17

管理人はたぼうの編集◇コラム

旅と消費とマウント (25/08/17)

 まずいのは、難しい「外」には興味が湧かず、なんの努力をする必要もない、だれでもできる易しい「外」だけに向かうことである。日々、流れていく流行現象ばかりを見ていると、「外」からの経験が内部に蓄積されないのである。 勢古浩爾著『古希のリアル』(草思社文庫)より

 自転車で移動中、小ぢんまりとした外観につられ、昼過ぎの暑さも手伝って通りがかりに入ったカフェ。内部には常連客の作品だという絵画や写真がたくさん展示されていて、思わず見入っていました。
 その様子を見たのか、ママさんが「あちらの常連さんの写真だけど、よかったら見てね」と数十冊にも及ぶ大量のポケットサイズアルバムを私の席のところへ持ってきてくださいました。さっそく中を見てみると、花の写真がいっぱい。菜の花、桜や花桃、芝桜、藤棚、バラ、田んぼアート、蓮、ヒマワリ、ヒガンバナ、...

 しばらく前までは、海外の多くの国々を旅行されていたと話してくださいました。私も若かりし頃は何か国か訪れたことがありますが、私の2倍も3倍、いえ10倍は旅行されているようです。素晴らしい行動力です。
 一番印象に残った地域はどこか尋ねると、奥様が「オーロラが良かったよねえ、おとうさん」
私はまったく存じませんが、オーロラといえばフィンランドが最も知られているのでしょうか、いずれにせよ、個人旅行で見に行くのは難しく、団体ツアーが手軽だと聞いたことがあります。相応の費用は必要でしょう。
 続いて、どこの国のどの料理がおいしかったか尋ねると、「う〜ん、そう言われてもねえ...」と、言葉に詰まったご様子。会話が噛み合わなくなってきてしまいまして、私のコミュ力不足が原因です。もっと努力しなければ...

 菜の花、桜や花桃、芝桜、藤棚、バラ、田んぼアート、蓮、ヒマワリ、ヒガンバナ、... アルバムを見ていくと、なんだか同じような写真が毎年繰り返されていることに気づきました。
 しかも写真の構図がどれも単調というべきか、まるで観光サイトやガイドブックに掲載されている画像そのもの。寄った画もなければ引いた画もない。ただただ対象となる花々を切り取っただけ。自然に対する憧憬や、花一つ一つへの慈しみは感じられません。
 一方で、すべての場所がよく紹介される観光地。マイナーな場所は一つも無く、なぜこんなところへ行くのかというような突っ込みどころは一切ありません。だからよけいにその人らしさというものが感じられません。

 菜の花、桜や花桃、芝桜、藤棚、バラ、田んぼアート、蓮、ヒマワリ、ヒガンバナ、...
 10年前の写真も少し色あせていたほかは、どれも同じでした。ただただ各地の観光商品を、注文通りに消費するスタイルを長年続けられているように見えます。それでご本人たちが満足なら、大いに結構なことです。元気に行動されていて何よりではないですか。
 しかしなぜプリント代をかけてまで大量の写真をポケットアルバムに収め、行きつけのカフェに持ち込むのだろう?
 これは私の勝手な邪推で、老夫婦のお考えとは全く異なっている可能性もありますが、おそらくこの小さなカフェで自己主張したかったのではないかと想像します。絵画や写真、手芸品などアートの土俵では、他の常連客と勝負にならない。そこで各地へ出かける行動力と、そのエビデンスを違う媒体のポケットアルバムに収めて勝負。カフェのママさんからも、常連客からも一定の評価を得てマウントをとれている、ように思います。


 嫌ですねえ。こういうひねくれた考えに陥ってしまう、歪んだ性格の自分がつくづく嫌になってしまいます。他人が何をしようと自由ですし、何を持ち込んで自慢しようが私には関係のないことなのに。
 80歳過ぎの行動的なご夫婦というだけで、私が勝手なイメージを持って、勝手な期待をしてしまっていたのかもしれません。シニア世代ともなれば、どんな旅行をしようが、どんな生き方をしようが好きにすればいい。

 老夫婦の旅のスタイルに少々引っかかってしまったのは、自分自身が何かに執着しているからなのでしょう。何かこうあるべきだという妙な考えにとらわれているのかもしれません。大量の同じような写真は、私自身への戒めでもあるのでした。こうして自省するきっかけを与えられたことに今は感謝しています。他人の行動に気持ちを左右されることなく、自分の旅のスタイルを続けていきたいと改めて思いました。

 自分を持っている人、自分に戻ってくることができる人は、「外」から取り入れたものを、自分の「内」で育てた人である。これは自分には無理、と簡単に「外」をあきらめなかった人である。「外」の現象を「内」で考えた人である。自分を持っている人は、たとえば俳句や短歌の実作をする。絵を描く。スポーツをし、楽器を弾く。研究をする。人まかせではない手づくりの旅をする。 勢古浩爾著『古希のリアル』(草思社文庫)より

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コラム25

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